ティラピアくんの怒り その2

(上から読んでね)
「県でも国に似たような状況があります。例えば岐阜県は、県庁の近くにある防災交流センターに県職員用の食料を備蓄しているんです。岐阜市阪神・淡路大震災のような地震に襲われた場合、災害対応職員は、そこで悠々と腹を満たしながら、災害対策を練るというわけです」
 しかし、災害対策本部を早い段階で立ち上げて、住民の安全を確保するためには、職員がきちんと食事をして、万全な態勢をとったほうがいいんじゃないの?
「もちろん、そうした方が災害対策本部の士気は充実するでしょうね。きっといい働きもできるでしょう。でもね、国や県と違って市町村では目の前に被災者がいるんです。その人たちに支給しない公費で買った食料を、住民に食料が行き渡らない前に、職員用だからといって、食べることができますか」
 そりゃぁ……できないよね。
「でも、国や県の発想では、それが災害対策本部の維持という観点からなら、できると踏んでいるし、実際の災害に直面しても、住民はそっちのけで飯を食うんでしょうね」
 ふうむ。でもね、ティラピアくん、災害対策本部の維持も重要だと思うんだけど……
「そのとおりです」
 君は災害対策本部要員だろう。実際にどうするつもりなのさ。飲まず食わずじゃ住民は守れないぜ。
「私は3日分の食料と水を私費で購入し、市役所のロッカーに置いています。万が一の時には、これを食いつないで、体力を維持し、災害対応に走り回るつもりです。初動期に、まだ住民に食料が行き渡っていなければ、自分のものとはいえ、きっと心苦しいでしょうが、災害対策本部の要員が倒れるわけにはいきませんからね」
 だったら公費で買っておいてもいいんじゃないの?
「私は、公費で購入した食料を住民より先に口にすることができません」
 堅いねぇ。でも、そのくらい毅然としてたほうがいいかもね。
「私の同僚の職員も同意してくれました。これからこの個人備蓄を役所全体に広げていこうと思っています」
 がんばれ、木っ端役人。