反論

「なに言うてまんねん。あんたらは人生を長く生きてきて死んでも本望かもしれまへん。けどな、あんたの周りに若い人がぎょーさんいまっしゃろ、もしかしたら生まれたばっかりのやや子かているかもしれまへんで。その人らが瓦礫の下に埋もれているとしたらどないします?救出には災害発生後の一日二日が勝負だっせ。一刻の猶予もありまへんで。その時期には自衛隊も消防も絶対に来れまへん。ほならどうするか言うたら、こりゃ人力しかおめへんなぁ。人の手で助けだしまんにゃわ。これがえらい作業だ。人手はどれだけあっても足りまへんで。『わたしは充分に長生きをした。だから今更じたばたしたくない。もし地震がきて死ぬようなことがあっても、それは天命だと思っている。だから地震対策などやりたくない』アホなこと言うたらあきまへんで。あんたの老い先の短い命なんかどうでもいい。問題はあんたが生き残ることによって助けられる命があるっちゅうこっちゃ。あんたが助けなければいけない命があるっちゅうこっちゃ。そのためにあんたの命を守るっちゅうこっちゃ。『天命だ』などと格好つけている場合だっか?あんたは生き残って人を助けなあかん。瓦礫の下に埋まってしまった生まれたばかりの乳飲み子を助けなあかんのだっせ。そんなてんごう言うてたらかないまへんで」
 と、一気にまくしたてたら老人会の人々は「うむうむ」と頷いてくれたのだった。めでたしめでたし。