ウサギ跳び

 高校1年の秋のことだった。大型自動2輪の免許が欲しくて、学校に内緒で放課後自動車学校に通っていた。当時、サッカー部に所属していたが、もちろん理由を捏造しサボるしかなかった。なにせ青春ですから、グランドで球蹴りをしているより750ccに跨って海岸通りを疾駆するほうがいいに決まってますよね。
 自動車学校の送迎バスは国鉄の駅前から出ているので、授業終了後、急いで駅前まで行かなければならない。しかし正門と裏門には、サボって帰宅する下級生をつかまえるためにサッカー部の先輩が見張っているのだ。この2箇所を避けて、民家の間にある第三の道を抜けて校外に出る。そして1キロほどの駅までの道程を猛ダッシュだ。この猛ダッシュが結構サッカーの基礎トレーニングになっていましたぞ(自画自賛)。
 駅前に着いて自動車学校のマイクロバスに乗れば一安心、最後尾の席で汗を拭っていると顔見知りの学生が何人か乗ってくる。
「うまくクラブサボれた?」
「今日は熱があることにしておいた」
「熱があるやつが猛ダッシュするかね」
「お陰で本当に熱があがった」
などと戯言を言っているうちにバスは発車した。めでたしめでたし。

 と、いつもならこれで終わるはずなのだが、その日は違っていた。踏切をこえて市街地を抜ける頃にドライバーがワシャたちに言うのである。
「後ろから誰か走って追っかけてくるよ」
「え?」とリアウインドウから路上を見ると、ユニホーム姿のサッカー部のキャプテンがマイクロバスを追走しているのである。(人間がバスと同じスピードで走るな!)
 次のバス停でマイクロバスに乗りこんできたキャプテンは、ワシャの首根っこを掴み車外へと引きずり出した。(バスよ、さようなら〜)
ワルシャワ君(君付けが妙に不気味だ・・・)、熱は下がったの?」
「は・はひ〜」
「じゃぁ練習できるよね」
「は・はひ〜」
 今日の最初の練習メニューは、この場所からグランドまでのウサギ跳びだった。それも、サボタージュのペナルティとして両手は頭の上でウサギの耳をつくる「恐怖のウサギ跳び」なのじゃ。

 キャプテンにたれこんだのは、親友だった。ワシャの行動を怪しいと見たサッカー部の先輩たちが何日も前から親友を丸めこんだ。最終的にワシャはお好み焼きと引き換えに売られたらしい。まるでKGBのような先輩たちだった。やれやれ。