成人式

 司馬遼太郎『風塵抄二』(中央公論社)の中に「私語の論」というエッセイがある。司馬さんが大阪府八尾市に呼ばれて、新成人の前で講演をされたんだそうだ。その時のことをこう書いている。
《満場、砂塵のように私語がわきあがっていて、壇の下を連絡のために往来する者もいたし、しゃがみこんで話しているもの、笑う者、昼めしの話をする者。私語というのは、壇上にいる者には物理的な力を及ぼす。無数のねずみに心臓の裏を爪でひっかかれているようであり、立っている自分が滑稽で、むなしくなる。》
 ううむ、このときの八尾市の新成人たちは惜しいことをした。天下の司馬さんの講演ですぞ、それを無料で拝聴できるというのに、誰一人聞いていなかったんでしょうね。温厚な司馬さんがバカ成人を「ねずみ」に喩えて意趣返しをしている。
 この司馬さんの話が30年ほど前の話である。ということは30年前も今も大して変わっていないじゃないですか。

 ニュースで沖縄の低脳新成人がとち狂っているのを放映していたが、行政がお仕着せの成人式を仕切っている間はバカの騒ぎは治まるまい。いっそのこと夕張市のように行政が完全に手を引いてしまえばいいのじゃ。さすれば真面目な成人が台頭し、バカは何もしないから出辛くなって自然に淘汰されていくわい。めでたしめでたし。