悲劇

 昨日の午前中のことだった。ワシャの会社には2号館があって、そこには公園に面している会議室がある。この会議室はまことに環境がよくて、南一面の窓からは四季折々の草花樹木が見える。今の季節は窓いっぱいに梅の緑だ。梅の梢には梅の実がたわわに実っている。その向こうに垣間見える芝生広場では、お年寄りや親子連れがベンチに座ったり芝生に寝転んだりして思い思いに寛いでいた。
 2号館のその会議室で打ち合わせがあるときには、いつも公園が望める北側に席を取る。会議中にちらちらと窓を眺めることにより殺伐とした会議に潤いが出てくるんですな。
 だから昨日の会議中にも心を癒すために何度か窓から公園の様子を見ていたのじゃ。

 芝生広場の中央辺りに設置してあるベンチに座っていた小太りのおばあさん(80代と思われる)がすっくと立ち上がった。仁王立ちになったおばあさん、地味で長くてだぶだぶのワンピースを突然たくし上げはじめた。下腹の辺りまでたくし上げたと思ったら、ズロースをペロンと脱いでしまった。
「ワ!」とワシャの心は絶叫したが、会議中なので口まで出かかった悲鳴を飲み込んだ。
 おばあさんはそのままその場にしゃがみこむと「ジャー」と小をしたのだった。
「ワワワ!!」ワシャはそのまま気を失ったらしい。
 どれくらいの時が過ぎただろうか。隣の同僚に揺り起こされて我に返り、窓の外を見てみれば、おばあさんはカートを押して芝生広場から去っていくところだった。おばあさん、ボケてしまったのだろうか。あるいはこらえきれなかったんだろうか。それにしても平然と用をたしたおばあさん、大物といえば大物だ。

 しかし、午前中からこんな恐ろしい目に遭うとは思わなかった。こわやこわや……