増山たづ子さん

 今朝の新聞に徳山村の名物ばあちゃんの増山たづ子さんの訃報が載った。88歳だった。
 20年ほど前、ダムに沈む村が気になって何度か廃村間近の徳山村へ通ったことがある。すでにその頃には徳山村下流側の工事現場では山が崩され森は削られ悲惨な有り様となっていた。ただ村はまだ一部の住民の方が住んでおり、少しだけ活気があったように記憶している。増山さんの写真集「故郷」に当時の徳山村が生き生きと映し出されているが、もうあの本の中の佇まいも崩壊してしまったんだろうな。
 愚かな中央の政策に同調した利益誘導型の政治屋の尻馬にのり、つまらぬ技術官僚が机上で気まぐれに決めた計画で、営々と続いてきた村の歴史、人々の暮らしを抹殺してしまうのである。この罪は重い。
 日本人は出来てしまえば、あるいは終わってしまえば過去の問題は水に流してしまうということが往々にしてある。愛知博でも予想以上の集客をしてなんとなく無事に終わったからいいじゃないの、という風潮がある。何日か前の朝日新聞には事務局長がニコニコで登場していた。かの愛知博に関する反省はまったくなされていない(というか聞こえてこない!)。
 徳山ダムも同じ轍を踏んではならない。出来てしまったのだから、「これはこれでよかったよね」にしてはだめだ。
 増山さんを始めとする元村民の悲しさの上に成り立っているということを忘れてはいけない。