ダムに沈む

 ワシャが『夏目友人帳

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が好きだということは、お気づきだと思うが、ワシャは主人公の夏目にまとわりつくニャンコ先生が気に入っているのだった。だいたいのファンがそうですよね(笑)。だから、ワシャの家にはニャンコ先生が大なり小なり100匹くらい棲んでいるのじゃ。

 昨日も寝る前に『夏目友人帳』を読み直していた。もう何回も読んでいるので、飽きそうなものだが、これが読むたびに新しい発見があっておもしろい。夕べは1巻を読んでいた。その中の第4話に「ダムの底の燕」という哀しい話がある。

 夏目が友達と山奥の小さなダムに遊びに行った時の話。干ばつが続いていてダム湖の底が干上がっていた。そこに霊感の鋭い夏目が「人影」を見るのである。そして憑りつかれて・・・物語が始まる。

 ワシャの母親の実家の村にもダムがあって、そこは村全体がダムに沈んだということではないのだけれど、学校とか商店とか村の拠点が沈んでしまった。ワシャのこどもの頃のことである。

 成人してから、たまたま里帰りのようなことで、その村を訪れたことがあった。その時が渇水の夏で、そのダムも干上がっていて、ダムの底が露わになっていた。全体が灰色になっていて、所どころに建物とか杭のような樹木の形が見えたっけ。残念ながら夏目ほどの霊力を持っていないワシャには、湖底になにものも見えなかったが、少なくとも人が住んでいた形跡が鼠色に固まっている風景は寂しかった。

 

 その記憶から意識が徳山ダムに跳んだ。昭和の末か、平成の頭に、ワシャは凸凹商事でサイクリング同好会をつくって、東海地方を仲間と走り回っていた。ちょうど今時分だと思うが、揖斐川町大垣市の北)まで自転車を運んで、そこから徳山村まで片道40キロのサイクリングをした。沈む前の、やや殺伐とした山村の風景があったものである。

 ワシャの書棚に『増山たづ子徳山村写真全記録』(影書房)という本がある。増山さんというのは、「カメラばあちゃん」と呼ばれた徳山の有名人です。20数年前に出版されたその人の写真集である。

 そこには元気な徳山村、ダムに消える前の山村が活きていた。これが全て失われたのである。歴史、文化、伝統を愛するワルシャワとしては、これほど痛いことはない。失ったものを復活させるのは不可能なのである。

 ワシャらはたまたまサイクリングで立ち寄っただけの通りすがりの者だった。「ああなんだか懐かしい風景だ」と思っても、そこに実際の体験はなく、思いも大したものではなかろう。しかし、そこで生きてきた人たち、代々そこで家族を養い、仲間とともに生きてきた人たちの心残りは如何ばかりであろうか。増山さんの写真に木造の橋がある。ワシャもそこを渡ったことがあるが・・・そうか、この橋も湖底に沈んでしまったんだね。

 

 ダム、どうだろう、その寿命は100年あるだろうか。徳山ダムが、利水から治水に都合よく換えられながら、わけの解からない導水路に河村市長が「撤退宣言」をしたりとか、紆余曲折を経ながらも完成した。でもね、はたして100年もつだろうか。ダム湖の底には年々上流から流れてくる土砂で埋まっていく。当然、浚渫をしなければダムの機能は低下し、放って置けば使えなくなる。もちろんダム自体も老朽化する。

 100年と言えば1人の一生でしかない。徳山村というところは、その何十倍もの歳月を、多くの村人に支えられて継続してきたのだ。文化の伝統も丁寧に編み込みながら。

 それを1世代の便利のために、名古屋市長は「そんな便利はいらんがね」と言っていたが、その程度のことのために潰してしまっていいものだろうか。

 

 とはいえ、徳山村

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%B3%E5%B1%B1%E6%9D%91_(%E5%B2%90%E9%98%9C%E7%9C%8C)

 昭和35年が人口ピークで2300人程度、そこから徐々に減少をはじめて、昭和60年には630人足らずになっている。もちろん、ダムの移転ということもあって、減り方が急激になっているのだが、おそらくダムができなくとも、行き止まりの集落だった徳山は、平成から令和にかけて、限界集落化は免れなかったろう。ダム工事がないまま揖斐川沿いに集落が点在していたとしても、その多くは廃屋になっていたのかもしれない。

 大都市の岐阜市ですら人口減少から免れない。いわんや山村の徳山をおいてをや。限界集落、消滅集落が全国のあちこちに露出しはじめた。住む人のない廃屋が朽ちていく様はあまりにも無残だ。かといって、湖底で泥に固められ放置されるのもいかがなものか。

 

夏目友人帳』の続きである。ダム湖に沈んていた燕の妖(あやかし)が、水から解放されて地上に現われ、「思いを寄せる村人に逢いたい」と夏目に告げる。ダムに水が戻るまでのわずかな時間しか燕は人の世に居られない。そのために夏目はいろいろな努力をするのだが、はてさて燕は思う人に逢えたのやら。

 

 ということで今朝は時間に余裕があったので、ダブダブと駄文を書くのに沈溺できたのでした。