似たようなことがありました

 今朝の朝日新聞1面、鷲田清一氏の「折々のことば」から。

「これは、結果がわからないのが面白い。だからやろう。」

 宮城県のある自治体が事業を立ち上げる際の説明会で上司から部下に呼びかけたセリフ。部下たちはこの言葉に心が動いたと、鷲田氏は書いている。

 事業に「伴い生じる負担や責任を案じるより先に、やりたいこと、やるべきことを大らかに思い描くこと」、これが大事だと鷲田氏は言う。さらにこう付け加えている。

「リーダーは、みなを引っ張っていくのではなく、未知の取り組みに心を震わせつつ踏み出せるよう後押しする人なのだ」と。

 まぁこれが理想ですね。しかし、世の中そう簡単にこの自治体のようにはいかない。ここで「上司」といわれる人、おそらく説明会のプレゼンを任されていることから課長級と見た。その事業が行政横断的な性質を持っているので「説明会」の形式を執ったのだろう。

 この自治体の首長やそのサブがよほどいい人だったんだね。課長に事業の裁量を委ねて、その課長がどういう発言をしようと認めていく。リーダーとして優秀なのは、この発言をした課長ではなく、この発言をさせたトップ、あるいはナンバー2の力量だと考える。

 

 愛知県のある自治体で、似たようなことがあった。新規事業を立ち上げる際に、やはり全庁的に職員を集めて、その事業説明を実施した。その説明をした課長がイケイケの男で、「これは、結果がわからないのが面白い。だからやろう」に類することを職員たちに伝えた。部下たちはその言葉にやる気を出した。

 それがナンバー2の副市長に伝わった。課長と課長補佐が副市長室に呼ばれて、副市長は2人の部下を面罵した。

「おまえが職員に話したことを俺は聞いていない!」

「結果がわからないような事業をするな!」

「おまえらは副市長室出入り禁止だ!」

「次の人事で飛ばす!」

 

 すべて反論できるけれど、ここで言い合いになると事業そのものが中止になりかねなかった。副市長は行政上がりのとにかく慎重派(金を使わず何もしたくない派)で、その上の市長は市長の席に座っていたいだけの盆暗だった。ゆえに事業の決裁権は貧乏くさい副市長が握っていると言ってもよかった。だからここは忍従するに限る。

「バカだ、タワケだ、マヌケだ」と15分ほど罵声を浴びせられたが、副市長の帰宅時間が迫ってくると、アホな部下のために超過勤務するのは嫌だったんでしょうね。「覚えておけよ!」と捨て台詞をはいてさっさと帰ってしまった。

 2人は「フーッ」と息を吐いて、副市長室のソファーに掛け副市長の言ったことを再確認した。

「事業内容を聞いていない」

 これは市長同席の場所で、何枚かのペーパーで説明している。その時は市長、副市長ともスケジュールが詰まっていて、搔い摘んだ説明で市長が「わかった」と言い、その後、市長、副市長は市長応接室から出ていってしまった。

「結果がわからないような事業をするな」

 建物や道路を造るのとは違って、ソフト事業というものの結果は見通せない。こういうことを言い出すトップ、ナンバー2がいる自治体は必ず閉塞する。

 結果は見えなくても、自治体をよりよくするために職員一丸となって最善を尽くす。それでいいのだ。

 

 その後、課長と課長補佐は「副市長室出入禁止」となり、3月の人事異動で2人とも飛ばされたのであった(笑)。