外人部隊は要らない

《小規模自治体に公認会計士ら「経営のプロ」派遣…上下水・公共施設の運営支援》

https://news.yahoo.co.jp/articles/9dad8eaf1e7d33f443c3cc46c3a44ff868e8f017

 記事にこうある。

総務省は来年度、市町村による上下水道や公共施設の運営を支援するため、公認会計士経営コンサルタントら「経営のプロ」を派遣する取り組みを始める。》

 ううむ、総務省はやっぱり「東大出てもバカはバカ」の集団かな(笑)。残念ながら、公認会計士経営コンサルタントは「経営のプロ」ではない。自治体経営というのは不採算な部門でも斬り捨てず赤字を覚悟でもやらなければならないこともある。民間の経営とは根本的に違う。それを「経営の合理化」とかお得意のやつを振りかざせば、帳面上は赤字が減るかもしれないが、大切な自治体行政の根幹が失われてしまう。

 例えば、公民連携とかPFIとか民間との共同の事業がいろいろな自治体で行われているが、民間が入りこんできて成功した事例がどれほどあろうか。

 

 ある自治体では、民間活力の導入とか言って、民間にPFIで公共施設を造らせた。そこにスーパーを張り付けて立体駐車場をこしらえ、施設への集客を増やしていく目論見だ。

 当初の設計協議の時に、ある課長が駐車場の区画や通路部分が狭いことに気がついた。民間の事業者も入った会議の中でそのことを指摘すると、民間の担当者たちは、「痛いところを突かれた」という表情で口ごもってしまった。

 それを見た行政側の事業部長が割って入ってこう言った。

「課長、おまえ4月の人事異動で来たばかりじゃないか。今までの経緯も知らずに口を挟むな」

 その部長の言うとおり、異議を唱えた課長は、1ヶ月前の人事異動で、左遷され今のポジションに飛ばされてきたところだった。「飛ばされた課長」なので「TOBASARE」の頭文字の「T」をとって、以降は「T課長」と呼ぶことにする。

 それでもT課長、食い下がった。異動直後にその図面を見て、直感的に「狭い」と感じたので、周辺にあるスーパーの立体駐車場の区画や通路の幅をメジャーで図りに行っていた。その結果も伝えつつ設計の変更を主張した。

 民間事業者は何も答えないので、部長がまた代弁をした。

「土地の狭い東京ではこの程度の駐車場はいっぱいある。市民もいつまでも田舎の駐車場ではなくて、都会の駐車場に慣れてもらわないといけない」

 それにT課長は猛然と反論した。

「部長、ここは東京ではありません。周辺には平面駐車場を持つスーパーがいっぱいあります。運転の苦手な女性たちがそういったところと比べて狭い通路、狭い区画の、このスーパーに足を運ぶとは思えません」

「おまえなぁ、日本でもトップクラスの建設会社の設計に文句をつけるとは、おまえ何様だ。これは副市長もご了解済みだ。これから設計変更してみろ。何百万かかるかわからないんだぞ。おまえそれを払えるのか!」

 この 部長の発言に、他の部長、課長も賛同し、結局、設計変更なしで動き出すことになった。

 T課長、このことは必ず将来の禍根になると思ったので、副社長のところに直談判に行った。

 ところがT課長、ずけずけと発言をするので副市長から「面会謝絶宣言」を下されており会ってもらえなかった(笑)。

 この段落の冒頭に「民間にPFIで公共施設を造らせた。そこにスーパーを張り付けて立体駐車場をこしらえ、施設への集客を増やしていく目論見」と書いたが、その目論見は見事に外れた。

 やはりT課長の懸念どおりで、狭い立体駐車場は女性客から敬遠され、スーパーはオープン直後から赤字に陥った。行政サイドにも利用者からの苦情が山のように寄せられたが、民間のやったことなので答えようもなく、ひたすら平身低頭をするしかなかった。

 建てた東京のデベロッパーはさっさと撤収し、T課長の意見を封じ込めた部長も市外の人間だったので、退職とともにさっさと自分の自治体に引っ込んで、その後の音沙汰はない。副社長にしても市外の人間だったので、後ろ足で砂をかけるようにして退職金を抱えて去って行った。

 

 残されたのは、使えない駐車場と、近々スーパーが撤退するので、がらんと空いた空間だけである。迷惑を被ったのは、その自治体で生活を営んでいる住民ばかりなのである。

 そのスーパーが消えて、人口にして中心市街地に買い物難民が生じている。だから今、その人口集中地区を巡回スーパーが回っているのだ。この街は限界集落か!

 

 ここでようやく冒頭の話題に戻る。

《小規模自治体に公認会計士ら「経営のプロ」派遣…上下水・公共施設の運営支援》

 それはいいけれども、その小規模自治体に根をはらない会計士でもコンサルでもなんでもいいけれど、そんな奴らが百人きたって何の役にも立ちはしない。おそらく金になるからやるのだろうけれど、お役目の期間が過ぎれは成功しなくても報酬だけを手にしてさっさと逃げていくわさ。使えない立体駐車場を造って逃げていった民間、部長、副市長のように。

 いいかい、総務省、強く言っておくが、会計士やコンサルを自治体に派遣するなら、その自治体に住んでいる人間にせよ。住んでいないなら移住させて、その土地に骨を埋めるくらいの決意、志をもった人間でなければ、必ずや失敗に終わる。

 当初の設計協議に出ていた民間の担当者が、その自治体に住んでいる人間なら間違いなく駐車場の狭さに合点がいくし、部長も副市長も、その街に住んでいればもう少し考えを巡らせたかもしれない。

 残念ながらその街で生まれ、遊び、活動をしてきたのはT課長だけだった・・・というような噺は全国のいたるところにある。

 熱海が成功したのは、キーマンが熱海に根をはっている若者だったからである。自治体経営に外からの干渉は要らない。総務省の出向官僚ですら、その自治体に生活の基盤を移すくらいの気概がなければ、せいぜい補助金を余分に取って来るくらいのことにしか役に立たない。

 よく考えて、机上の空論ばかりを振り回しているんじゃない!