ワシャは池上遼一さんの作画が好きで、『男組』の頃からその男っぽい男たちに魅了されたものである。『傷追い人』の頃には絵も上手くなって、池上さんの掻く女性の美しいことといったらありゃしない。主人公に強姦されながら魅かれていく日下夕湖とか、『クライングフリーマン』の眼鏡美女の日野絵霧とか、とにかく次から次へと出てくる女性たちの美しいことといったら・・・。おそらく劇画の中ではもっとも美しい人物を描く作家であろう。
ワシャの好きな『サンクチュアリ』の警視庁六本木署副署長の石原杏子もずば抜けた美人だ。この副署長さんが、罪を暴こうとヤクザの組長の北条彰の調査を進めるのだが、人となりを知れば知るほど惚れていくのである。このあたりの切ない表情も見どころですぞ。
『サンクチュアリ』、池上さんの絵もいいのだが、物語もおもしろい。原作が史村翔(ふみむらしょう)だが、むしろ『北斗の拳』の武論尊といったほうが通りがいいかもね。 『サンクチュアリ』は、主人公の北条と親友の浅見が極道の世界と政治の世界でのし上がっていく、青春サクセスストーリーとなっている。
物語については、ネタバレしては興味が削がれてしまうでしょうから、とくに触れませんが、二人の若者が、権力を牛耳る老獪な老人た古いしきたりやルールと戦って生き抜いていく様は、どれほどワシャの軽い脳味噌を刺激してくれたことか。
なにしろ北条も浅見も格好いいんですわ。こいつらに「ナリテー」って若い頃は真剣に思っていましたぞ(笑)。しかし国会議員になれるわけもなし、むろんヤクザなんてとんでもない話で、フツーのオッサンになってしまったけれど、それでも生き様なんかは吸収させてもらった。その他の登場人物も男っぽくって格好いいヤツが多いんですわ。前科32犯の渡海とか、六本木署の暴対デカの尾崎、神戸山王会のナンバー2の伊吹も渋いんですわ~。
カッケー男と、ジンビーな女に会いたかったら『サンクチュアリ』はお勧めです。
さらにこのドラマが扱う中に「権力争い」とか「非合法な団体とのつき合い」とか支那やロシヤとの闇ルートの話なんかも出てきて、平成の初頭を時代背景としているのだが、まったく今でも色褪せていない内容である。さすが武論尊。
ちょっとセリフを引きますね。広域暴力団のトップの言うセリフなんだけど、政治にも通じるところがあって含蓄がある。
「思えばシンプルな世界だ。どんな壮大な絵を描こうが、描いた人間が消えちまえば絵も霧散する。生き続けてなんぼ」
国会議員を目指す浅見が言う。
「政治に全く無関心な人間と、一票では何も変わらないとあきらめてしまった人間。だがその50%を掘り起こせば政治は変わる!」
「立風会の政策、基本戦略――憲法改正です」
華僑のボスのセリフ。
「伊吹さんは一年先を見るヒトじゃない。十年先を見るヒトなんですよ」
政権与党の民自党の幹事長が、陣笠議員を前に絶叫する。 「バカタレがー!この中で神戸山王(ヤクザ)と一切の関わりの無い人間が何人いる!?」
有権者が「清き一票」を人質に土下座を強要するが、立候補している北条が部下に言う。
「田代!土下座する必要はない!この男の一票など要らん!」
そして有権者に笑顔でこう言った。
「あんた、弱いモノに対しちゃ徹底的に強く出る・・・反面、強いモノにゃおそらく媚び、へつらうだろう」
アメリカ大統領がつぶやく。
「日本人というのは黄色くて体の小さいバランスの悪い決して美しいとは言えない人種だ。それが今やアメリカを脅かす経済大国を築き上げた。彼らの勤勉さかね?」
これに対して補佐官がこう答える。
「もちろんそれもあります。ですが、もっと根本にあるのは“日本人”という誇りでしょう」
街頭演説をする若い浅見に対して、老サラリーマンがこう主張する。
「君達の理想、夢も評価はする。だが、夢や理想で何ができる?君達、若い議員に対する不安が存在するのもまた事実なんだ」
浅見が老サラリーマンにこう諭す。
「もう一歩だけ前に進んでみませんか?夢や理想が無ければ何も変わらない」
右翼の長老が断定した。
「旧ソビエト連邦という国が崩壊し、今のロシアに変ったとしても、脈々と流れていた主義主張が、変わることはない。特に優秀なエリートであればあるほど、その中に大国主義は厳然と存在する」
民自党の大物政治家の未亡人が言う。
「党とは、政権を握る事でなく、政権を担い、国や国民を造っていくために在るんじゃないんですか?」
主人公の北条がロシヤについて語る。
「たしかに北方領土の問題も資源開発の経済問題もあります。しかしもう一つ、ロシア自身が大きな問題を抱えています。“核”です。(中略)混迷する大国の足元に最も恐るべき脅威が転がっている。世界中がその脅威の下にあるんです!」
ね、結構今っぽいでしょ。色褪せないものって凄いです。