扇々喬々

 夕べ、名古屋大須演芸場柳家喬太郎と入船亭扇辰の二人会があった。友だちのユッキィさんが誘ってくれたので、仕事を終えてすぐにJRに飛び乗った。ワシャは年季の入った花粉症なので、この時期、外に出るのはおっくうなのだが、恵みの雨が週初めから降っている。スキップをして出かけましたぞ。

 午後6時45分の開演には間に合った。この日記にも登場するセコミチさんやホンスミさん、そして構成作家のTさんもお仲間だった。席は「く列」の10番から14番、ワシャの席が中央寄りで通路際だった。ユッキィさんは右隅の壁際寄りの席だったのでなんだか申し訳ない。

 前座の柳家あお馬は堅実な落語だった。演目は「出来心」のさわり部分だけを。大化けはしないだろうが年を重ねればそこそこの落語家にはなっていくだろう。がんばってね。
 さて、扇辰である。この人ね。
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 刈り上げた白髪頭、面差しは江戸風でいい男だ。ワシャはずいぶん昔から扇辰に注目していた。10年くらい前の40代の扇辰を聴いている。その時はメリハリの利いた噺家でたたずまいもよかったので好感を持った。しかし、何度か聞いているうちにくどく見えるところも現れる。それがはまるといいのだが、外れると鼻についてしまう。例えば、べらんめえ調で開き直るところに品が感じられず、もう少し抑えればいい風味が出るのになぁ……と思ったものである。
 昨日の扇辰は50も半ばに差し掛かっている。当然のことながら貫録が増し、大師匠の風格さえただよう。最初の演目は「紋三郎稲荷」。侍がキツネに化けて、駕籠屋や本陣の主をだますという噺。古典だが小品で、登場人物は山崎兵馬、駕籠屋甲、乙、本陣の主、キツネくらいのもので、そこは扇辰、見事に描き分けて下手に消えた。
 次が喬太郎である。お客の目的はこの人にあるので、そりゃあ拍手も篤い。噺は古典の「うどんや」。これも小品なのだが、喬太郎の手に掛かると大爆笑ネタになるから不思議だ。話の筋はしっかり押さえつつ、きっちりと喬太郎のキャラが席巻する。笑った笑った。
 中入り後、喬太郎が続けて高座に上がる。「トリじゃないから気が楽」と言い切って、新商品のカップ酒の名前を決める会議の噺で、演目の名前も知らないけれど喬太郎全開で会場は大受けだった。
 そしてトリの扇辰が「鰍沢」を掛けてきた。これは人情噺の大ネタである。簡単に筋をまとめると、身延詣りの道中、鰍沢に出ようとした旅人が風吹に見舞われて山中で迷ってしまう。そこで一軒の人家に辿りついて泊めてもらうことになる。ここにいたのがかつて江戸で花魁をやっていたお熊といういい女。これが旅人の金の入った胴巻きに目を付ける。旅人にしびれ薬を飲ませる。その後、それが旅人に知れ、雪中の追いつ追われつの大活劇になる。Tさんは「鰍沢の後半はインディジョーンズのようだわね」と言っておられたが、まさに雪山から釜ヶ淵に墜落し、山筏に乗って急流を下るくだりなんざぁまさにジョーンズ博士のようですぞ。
 てな具合でたっぷり5席の落語を堪能したのだった。午後9時にハネ太鼓が打たれてお開きになった。会場の外では小説家の奥山景布子先生とばったり。「あらま〜お元気〜」とご挨拶をして、その後、仲間と居酒屋へしけ込む。
 あ〜おもしろかった。