大名古屋らくご祭その2

 4人の演目を記しておく。

 三遊亭白鳥「シンデレラ」
 柳家喬太郎「転宅」
 春風亭昇太「二十四孝」
 林家彦いち愛宕リバー」

 口開けは白鳥である。紋のところに大きな白鳥がアップリケのように縫い付けてある。袖には体操着のような三本ライン。奇をてらった着物は新作の雄である証か。落語評論家が「落語会の極北で暴れる異能の噺家」と評していたが、まさにそのとおりで、ワシャの右隣に座っていた女性は、白鳥がなにか言うたびに動くたびにけたたましく悲鳴のような笑い声を上げていた。これが白鳥のマニアックなファンなんでしょうね。この高座でも「トキそば」の座布団を高座に叩きつけて「手打ちそばを作るところ」を演ってくれたけど、頭の固いワシャのような落語好きには違和感を覚える。
 談志が「こんなヤツで笑う客が許せない」と怒ったというエピソードは有名だ。慣れてくればおもしろいのだろうけれど、ワシャの歯には合わない。結局、20分のネタ中、2〜3回「クスクス」と笑ったくらいか。
 でもね、少しだけ肩を持つと、おそらく白鳥の芸風では名古屋市民会館の大ホールは大きすぎたのではないだろうか。300人くらいの寄席やホールだったら、白鳥の違和感が全席を覆って大爆笑の渦が起っただろう。しかし、1200人に迫る客が居並ぶ場所では、笑いはその奥行きに吸収されて、1人の噺家の手に余るような気がする。おそらくホールの後方や2階席では、白鳥のオーバーアクションの迫力も伝わりにくい。大ホールを支配できる噺家はそうそう存在するものではない。

 いる!
 柳家喬太郎である。喬太郎は「新作派」を自認しているが、本寸法の落語についても名手と言っていい。さすが喬太郎で、白鳥の後で新作を重ねる愚を避けて「転宅」という古典を持ってくるところなんざ、落語会全体の立て付けまで考えている。これには、ドカンドカンと大笑いしましたぞ。

 春風亭昇太である。やはりこの人は頭がいい。仲入りののっけは会場が冷めている。そこで今さっきの楽屋の話をマクラに持ってきて、それで会場を温めてしまう。楽屋で出される弁当の話で、弁当のカレーが用意されているにも関わらず、喬太郎は自分で持ち込んだ寿がきや味噌煮込みを茹でて、そこに弁当のカレーをかけて食っている……というようなことを披露したのだ。そうしたらね、下手からステテコ姿でカレーインスタントうどんをすする喬太郎が顔を出した。これは大爆笑ですよね。高座に坐っている昇太もこれには驚いたようで、呆然と喬太郎を見ていたが、それでも、喬太郎が引っ込むとすぐに噺を立てなおして、自分の世界に引っ張り込んでいく。この臨機応変さは昇太の地頭のよさを物語っている。さすが「笑点」の司会を任されるだけのことはある……と妙なところに感心してしまった。

 そしてトリは林家彦いちである。この人も新作の雄だ。古典も演るんだけれど、派手な動きが伴う見せる噺になるので、古典に思えないところがおもしろい。この日の掛けた噺が「愛宕リバー」というネタ。元は古典の「愛宕山」なのだが、それを自身が体験した過酷なカナダのユーコン川下りを合わせた噺なのである。そもそもの「愛宕山」自体が荒唐無稽なばかばかしい噺なのだが、それがユーコン川キングサーモンに乗って戻ってくるなんていうさらにあほらしい展開には大笑いだった。

 いやーおもしろかった。
 会が終了したのが午後9時30分、それから近くのトリを食わせてくれるところに行って反省会をした。つくねのうまいお店でね、地鶏のたたきも美味しゅうございました。あ〜楽しかった。