図書館文庫貸出問題

 今朝の天声人語もこの話題だった。
《“図書館で文庫本貸さないで” 出版社社長が呼びかけ》
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171013/k10011177231000.html
 文藝春秋の社長が、全国図書館大会でこう呼びかけた。
「会社にとって文庫本は、収益全体の30%を占める大きな柱になっているだけでなく、良書を発行し続け作家を守るためにあるといっても過言ではない。できれば図書館で文庫本の貸し出しはやめていただきたい。それが議論の出発点になればいい」
 たしかに図書の貸出数の4分の1を文庫が占めている図書館もあると聞く。これは異常だ。図書館が文庫貸し出しにシフトしていなければこんな数字は出てこない。ちなみにワシャの近所の図書館は全貸出冊数の5%を切っているということだから、健全な状況と言えるが……。

 慶応大学の教授はこう言っている。
 教授は図書館の貸し出しによって本が売れなくなっていることを示すデータはないと前置きをして「本の新たな提供システムを考えるときに、出版社や図書館、作家などすべてが文化を継承する担い手になるという意識を持ち共同で作業を行っていくことが必要だ」と訴えた。
 データはないわなぁ。ただ、まともな図書館では文庫貸し出しの数字は把握しているので、それをどこかの研究者あたりがまとめるべきで「データはない」って大学の先生に開き直られても困る。
 おそらく文庫貸し出しは、多いところで25%くらい、健全なところで5〜10%といった程度ではないか。年間貸出冊数が100万冊として25%なら25万冊。ワシャの近所の図書館が年間200万冊くらいだから5%で10万冊である。
 どちらにしても1自治体で10万〜25万冊くらいは買って読まれず借りて読まれているということになる。
 新潮社の社長も「人気の最新本は図書館で1年間貸し出さないでほしい」と呼びかけている。それも手だろう。どうしても買って読みたくない人は1年待てばいい。その場で手にしないと読む気の失せるワシャのようなせっかち本読みは買えばいいのである。

 カズオ・イシグロノーベル文学賞に輝いた。それまでは見向きもされなかったイシグロの文庫が急激に注目をされはじめる。ノーベル賞報道直後に、速攻で最寄りの図書館の予約状況を見てみたのだが、早い人は早い。『日の名残り』に2件の予約が入っていた。それが現時点では67件の予約数になっている。『わたしを離さないで』で107件、『忘れられた巨人』で36件であった。うちの町だけでも、これだけの人がカズオ・イシグロに触れはするが文庫は買わないで済ます。
 はてさて活字離れということからいえば、図書館を利用してもらうのはいいことだ。だが、出版文化を守るということでいうと、どうなのだろう。

 前述の慶応の教授は「出版社や図書館、作家などすべてが文化を継承する担い手になる」と言っているが少し欠落している。「など」の中に入れてあるのかもしれないが、少なくとも文庫に関していえば「ブックオフ」や「古書店」の存在を忘れてもらっては困る。「ブックオフ」の文庫のラインナップを見てごらんなさいよ。並の書店では勝負できないほどに充実している。出版されて1カ月も経たない新刊文庫が「ブックオフ」の棚に並んでいるのだからどうしようもない。
 それに全国の図書館の貸出冊数の減少がここ数年来続いているということである。そもそも活字を読まなくなった。先週末に電車に乗ったけれど、満員電車の中で活字を読んでいたのはたった1人だけだった。スマホいじりは30人くらいいたけどね。そもそも文庫は持ち運びにいいから普及している。文庫の販売減には図書館ばかりではなく、ブックオフスマホなども含めて考えていく必要があるのではないか。

 今朝の天声人語は同じ話題なのだが、手垢のついた情報をいくつか並べている。唯一、川上未映子(作家)の文庫の選び方を開陳している。岩波文庫の前に目をつむって立ち、触った本を無作為に買うのだそうな。特殊な買い方なので普通の人にはまったく参考にならない。
 天声人語氏、コラムのケツを「書店に入れば文庫の棚へと一直線なのである。」とまとめているが、話を創っている。おそらく文庫の棚にも行くのだろうが、よほどの読書家でも新刊書コーナーや得意の分野、新書、雑誌などを巡ってから文庫ではないか。そんな話の捏造をしている暇があったら文庫と図書館の共存について、切れ味のいいアイデアを出せ。