摘花と鉄火

 ワシャは多くの日本人同様に潔い桜が好きだ。桜のピンバッチに桜のネクタイピン。高山祭のピンバッチも持っている。でもね、満開の桜が好きかというとちょっと違う。へそ曲がりだから、満開から少し盛りを過ぎた散りいそぐ桜が好きなんですね。もう少し付け加えると、「愛染かつら」のように満開とすれ違ってしまったという惜別感、また一年を待たなければならないのか……わずかではあるがそんな悲しみをともなう。だから好きなんですね。
 市街地に用水が流れているのだが、堤防道路沿いに桜がけっこう植わっている。水路が風の通り道になって、それが花を摘んで水面に落す。だから用水の下流のほうにいくと、花筏が見事だ。これも散り始めてからのほうがいい。

 先日、仲間と居酒屋へ行った。その時に、いつもは寿司や焼きそばなどを率先して食べていた友人が、それらに手を出さない。「どうして?」と問うと、「健康のために炭水化物を控えている」のだそうな。そこでワシャは「そんな極端なことをしなくてもいいと思いますぞ」と言っておいた。友人の好物の寿司がずらりと並んでいるのである。朝昼でセーブしていれば、それくらいはつまんでも影響はない。
 名著『ウンココロ』(実業之日本社文庫)の著者である寄生虫博士の藤田紘一郎先生が『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)という本を上梓している。先生は「炭水化物(糖質)が50歳以上には燃料にならない」とか「糖質を摂り過ぎると老化が加速する」と言っている。詳細は本を読んでいただきたいが、それも確かに一理ある。しかし、「糖質制限には問題がある」と指摘する医師もいる。「肉食中心の欧米人向けの健康法が2000年にわたって炭水化物から栄養を摂取してきた日本人の体質に合わない」ということなのだ。詳しくは「文藝春秋」の5月号に内科医の奥田昌子氏の問題提起があるので、それを読んでくだされ。
 楽しい居酒屋でパリパリの海苔をまとった鉄火巻を1つや2つ制限したところで、大したことではない。むしろ海苔、赤身、山葵、酢飯、どれをとっても健康にいいものばかりである。それほどこだわらずに大らかに食べればいいと思いますよ。