クドカン

 昨日、書庫の掃除をしていて「週刊文春」の8月8日号を掘り出した。2カ月も前の雑誌だったが読んでいるとおもしろい。ニュースグラビアのトップは「山口県周南市5人殺害事件」だったが、すでに旧聞となってしまったなぁ。

 連載エッセーには宮藤官九郎みうらじゅんが並ぶ。クドカンのエッセー「いまなんつった?」の冒頭に《みうらじゅんさんと雑誌の対談で箱根に行って来ました。》とある。およよ、このあいだ買った、宮藤官九郎みうらじゅん『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』(集英社
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-780683-0
の表紙が浴衣姿のお二人である。「はじめに」でみうらじゅんさんが《「1泊でも旅行すれば」と、編集者に願い出て箱根に行った。》と書いている。
 ほほお、この時期に宮藤さんとみうらさんは箱根に行って駄話をしていたんですな。8月8日号だから実際の発売日は8月1日、そこに原稿を入れなければならないので、少なくとも3〜4日前にはクドカンから入稿されたはずだ。となると箱根行きは1週間前と見て7月25日、そのあたりか。別にどうでもいいのだけれど、週刊誌と単行本がつながって妙にうれしい。
 本の内容は、タイトルからもわかるように、ご両所のたわいもないエロ話というか雑談っていうか。暇つぶしにはしっくりくる一冊である。

 さて、そのクドカンの「あまちゃん」が最終回を迎えた。全編を通じて、さすがクドカンだった。どこを切っても元気になれた。笑えた。活き活きとしたキャラに会えた。『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』には幾葉かの写真が載っているが、どのクドカンも風采のあがらない、どちらかと言えばいかがわしそうな男に見えるけれど、これが天才なんですね。
 2009年、東京に上京したときのことである。前夜に遊び過ぎてフラフラになってしまった。その日も夕方に人に会うことになっていたので、「こいつは睡眠をとらなければ倒れてしまう」と思って、少しでも仮眠を取ろうと有楽町の映画館に入ったものである。それがクドカンの「少年メリケンサック」だった。それが最悪だった。のっけから大爆笑で、2時間笑いっぱなし、まったく眠れなかったわい(泣)。
 おっと「あまちゃん」だった。
 NHKの連続テレビ小説の最終回は、毎回1パターンと言っていい。それまでの出演者がぞろぞろと出てきて「総顔見世」となって、笑顔笑顔笑顔で終わる。もちろん「あまちゃん」も元気劇なので、そうなることは判っていた。
 ところがさすがにクドカン、そんな予定調和では終わらない。最後の最後で琥珀掘りの老人ベンさんを持ってきた。それにしてもこんなエピソードをラストにはさむかなぁ。

今やベンさんの採掘現場は観光名所になっている。そこで3cmほどの恐竜の化石を見つけたのだ。8500万年前のものでベンさんは第一発見者としてその名を長く留めることになるだろう。嬉しさのあまり、喫茶店リアスに飛び込んで、弟子の水口くんに報告するのだが、焼うどんを食べる寸前の水口くんはベンさんを相手にしない。小さな化石をかざし「同じものは2つとない!」と言い切るベンさんに、水口くんは、箸置きとして使っている化石を見せて笑う。第一発見者は前日に同じものを見つけていた水口くんだった。ベンさんは「僕が発見したことにしてくれない」と哀願するのだが、水口くんは「いや、証言者もたくさんいるし……」と答えるのだった。
そして後日の地方新聞の一面を飾ったのは、北三陸鉄道の再開ではなく、水口くんの化石発見だった。喫茶店の窓辺に座り「悔しい……」とつぶやくベンさんに哀愁が漂っている。

 最終回の15分に、普通ならこんな思いエピソードを挟まないでしょ。それをあえて入れ込んでくるところがクドカンの凄さでもある。この脚本家、放送作家、映画監督、作曲家、作詞家……どこまで進化していくのだろう。
 ワシャ的には、ぜひ、歌舞伎の台本を手掛けてほしいと思っている。