敖倉(ごうそう)

 本日、菜の花忌。合掌。

 昨日、本を買いまくった話をした。仕上げはブックオフの帰路、『文藝春秋』の3月号が出ているので、いつもの書店によって購入。
帰宅後、ブックオフで購入した本はクリーニングして、取りあえずはリビングに積んでおく。これらは立ち読みの段階で内容を確認してある。重要なところには付箋を貼ってあるので後回し。あとで風呂にでも持ち込んで読みはじめることにしよう。

 まずは『文藝春秋』である。おおお、3月号は充実しているなぁ。司馬遼太郎の生誕90周年記念特集がある(再び合掌)。おっと、作家の宮城谷昌光さんが「司馬遼太郎が見たアジア」について寄稿しておられるぞ。その中でこんなエピソードを披露された。
《じつは司馬さんとお目にかかったとき、項羽と劉邦の話が出て、私が敖倉のことを口にしたら、司馬さんが「宮城谷さんは勉強しているからな」と、誉めてくれた。》
 この敖倉(ごうそう)である。ワシャは寡聞にして知らなかった。「広辞苑」には載っていない。「日本国語大辞典」にも記載されていなかった。もちろん「世界大百科事典」にもありましぇ〜ん。
 仕方がないので、「項羽と劉邦」とあるから「史記」だろうと目星をつけ、『史記外伝』(岩波文庫)の巻末索引をめくってみる。ここでようやく敖倉に当たった。
 なんと『史記外伝』には8回にわたって出てきている。「史記」を読みこんでいれば、敖倉など常識なのかも知れないが……甘しワルシャワ
 これでやっと敖倉が何ものなのか理解できた。魯(ろ)の国、曲阜(きょくふ)県の東にある敖山(ごうさん)に作られた巨大な食料備蓄倉庫のことである。ここが戦国時代にたびたび戦略拠点として攻防の場所になった。因みに曲阜は孔子の生地であり、儒教の聖地となっている。
 
 司馬さんと宮城谷さんには、いつもながら叱責をいただく。こんなこともあった。宮城谷さんが司馬さんの小説『翔ぶが如く』を取り上げて、《私は『翔ぶが如く』というタイトルを聞いたときにも、すぐ中国の最古の詩集『詩経』の中にある、「鴻鴈の什 斯干(こうがんのじゅう しかん)」という詩を思い出しました。》と、いとも簡単に言われる。
 もちろん司馬遼太郎宮城谷昌光両氏とも知の巨人であることは論を俟たないが、それにしてもワシャとのあまりの違いに、勉強する気力が萎えまっせ。この人たち、どこまで極めているのだろう。
 それでも調べてみると、さほど難しいものでもないらしく、新書漢文大系の『詩経』(明治書院)はかなりの抜粋版だが、ちゃんとそこにも載っていた。漢詩を勉強した人にはもしかしたらスタンダードな詩なのかもしれない。

 アホには、日暮れて道遠し。とはいえ、まだ暮きってはいない。ああ、もう少し時間が欲しいなぁ……。


 ネットのどこを探しても読み下し文が見当たらない。だから記載しておこうっと。ここからはメモなので無視してくだされ。

 斯干(しかん)

秩秩たる斯の干(ちつちつたるこのたに)
幽幽たる南山(ゆうゆうたるなんざん)
如に竹苞り(ここにたけしげり) 
如に松茂る(ここにまつしげる
兄及び弟よ(けいおよびていよ) 
式て相好せよ(もってあいよみせよ)
相猶むこと無かれ(あいにくむことなかれ)

妣祖に似續し(ひそにじぞくし) 
室を築くこと百堵(しつをきずくことひゃくと)
其の戸を西南にせり(そのとをせいなんにせり) 
爰に居り爰に處り(ここにおりここにおり)
爰に笑い爰に語らん(ここにわらいここにかたらん)

之を約すること閣閣たり(これをやくすることかくかくたり) 
之を椓すること橐橐たり(これをたくすることたくたくたり)
風雨攸に除け(ふううここにさけ) 
鳥鼠攸に去け(ちょうそここにさけ)
君子攸に芋り(くんしここにおり)

跂ちて翼たるが如く(つまだちてよくたるがごとく) 
矢の棘なるが如し(やのきょくなるがごとし)
鳥の革するが如く(とりのかくするがごとく) 
翬の飛ぶが如し(きのとぶがごとし)
君子攸に躋れり(くんしここにのぼれり)

殖殖たる其の庭(しょくしょくたるそのにわ) 
覺たる其の楹(かくたるそのえい)
噲噲たる其の正(かいかいたるそのせい)
噦噦たる其の冥(かいかいたるそのめい)
君子攸に寧んぜり(くんしここにやすんぜり)

莞を下にし簟を上にし(かんをしたにしてんをうえにし) 
乃に安んじ斯に寢ぬ(ここにやすんじここにいぬ
乃に寢ね乃に興き(ここにいねここにおき) 
乃に我が夢を占わん(ここにわがゆめをうらなわん)
吉夢は維れ何ぞ(きつむはこれなんぞ) 
維れ熊維れ羆(これゆうこれひ)
維れ虺維れ蛇(これきこれだ)

大人之を占いて(だいじんこれをうらないて)
維れ熊維れ羆は(これゆうこれひは) 
男子の祥(だんしのしょう)
維れ虺維れ蛇は(これきこれだは) 
女子の祥と(じょしのしょうと) 

乃し男子を生まば(もしだんしをうまば) 
載ち之を牀に寝ねしめ(すなわちこれをしょうにいねしめ)
載ち之に裳を衣せ(すなわちこれにしょうをきせ) 
載ち之に璋を弄せしめん(すなわちこれにしょうをろうせしめん)
其の泣くこと喤喤たれば(そのなくことこうこうたれば)

0芾皇たりて(しゅふつこうたりて)
室家の君王たらん(しつかのくんおうたらん)

乃し女子を生まば(もしじょしをうまば) 
載ち之を地に寢ねしめ(すなわちこれをちにいねしめ)
載ち之に裼を衣せ(すなわちこれにていをきせ) 
載ち之に瓦を弄せしめん(すなわちこれにがをろうせしめん)
非うこと無く儀無く(あらがうことなくよこしまなく) 
唯だ酒食を是れ議れ(ただしゅしょくをこれはかれ)
父母に罹いを詒すなかれ(ふぼにうれいをのこすなかれ)