miracle

 2010年6月14日のことである。前日に燃え尽きた小惑星探査機「はやぶさ」が地上に返した、人類に孵したカプセルがオーストラリアのウーメラ砂漠で発見された。これは、人類史の中でも快挙と言っていい。JAXAの大手柄だった。この一事をもって世界が日本の科学技術のレベルの高さを再認識した。どこぞの国の衛星発射と偽った弾道ミサイル実験とは次元が違う。
はやぶさ」の帰還が、どれほど多くの子供たちに夢と希望を与えたことだろう。いやいや、それどころではない。「はやぶさ」の帰還は中年のオッサンにも夢を与えてくれた。ありがとう!
 
 その9ヶ月後、東日本大震災後の対応を、阿呆どもが寄ってたかってぶち壊し、福島県の東部を人の住めない土地にしてしまった。政府、霞ヶ関東京電力が、どれほど多くの子供たちの夢と希望を奪ったことか。少なくとも菅直人以下、本部に詰めながらなにもできずに右往左往していた連中は何らかの責任をとるべきだろう。残念ながら、日本の国土を汚し、子供たちの故郷を殺したのだ。その責任は極めて重い。
 
 JAXAのリーダーの川口淳一郎さんと、原子力安全委員会の班目委員長、おなじ科学者にも関わらず、なぜ、こうも出来が違うのだろう。その答えは、川口淳一郎はやぶさ、そうまでして君は』(宝島社)の中にある。
《サンプル採取に失敗している可能性も、「はやぶさ」との通信が途絶え、行方不明になっていることも、すべて公表しています。救出には時間がかかる、対応策として講じるべき手は尽くした。あとは交代で運用する体制を整え、忍耐強く待つほかないと思ってはいても、どん底の状態で発表するのは、どうにも気が重い。》
 蓮舫議員にぼろくそ言われながらも、でも、川口教授は、真実を公表しようとしていることがわかる。
 反対に、今回の原発事故に関わった班目委員長に代表される原発御用学者たちの愚鈍さはいかばかりであろうか。情報を隠すこと、責任を転嫁することに汲々としている。一言で断じるなら、この差が両者の明暗分けた。

 おいおい、まだ班目さんは委員長をしていたの?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120323-00000588-yom-sci
 昨年の3月28日の記者会見では、高放射線量の汚染水への対応について質問され、「安全委はそれだけの知識を持ち合わせていない」と言い切って逃げた。そんな無能な委員長が率いる原子力安全委員会が、関西電力大飯原発の「ストレステスト(耐性検査)」の1次評価について、審査書を了承しちゃっていいの?
 班目さんなぞ、とっくに引責辞任しているものと思いきや、まだ、電力会社への利益誘導のためにシコシコと動き回っているんだね。
 ううむ、金にまみれ、金を産み出すために、手を抜き続けた原子力村の科学者の話をしていると、だんだん気分が悪くなってくる。さわやかな「はやぶさ」のほうに話を戻す。

 ときに人知をこえた力が作用することがある。「はやぶさ」はイトカワからの帰還の途上に燃料漏れを起こして地球との通信が途絶してしまった。しかし、川口教授たちは絶対にあきらめなかった。「はやぶさ」が消えてしまっても、天空に向けて指令電波を送信し続けた。
 通信途絶から46日後、幽かな電波が雑音に紛れて地球に届く。「はやぶさ」のそれははかない小さな声だった。「はやぶさ」は生きていた。何もない宇宙空間で「はやぶさ」は独り闘っていたのだ。
はやぶさ」のソーラーパネルは必死に遠く小さく輝く太陽を捉え発電していた。バッテリーはそのわずかな電力を逃さぬように確保し続ける。芥子粒より小さな地球を、満身創痍のアンテナが捉え、回転しながらわずかに開く小さな通信の窓に、地球からの微弱な電波を捉えた。奇跡と言っていい。
 まだある。ここは川口教授に説明してもらおう。
《搭載されていた11個のリチウムイオン電池セルのうち、4個は過放電で使い物にならない状態でした。ところが補充電回路がONになっていたため、残りの7個は無事で、行方不明の間も、微弱電流で少しずつ充電されていたのです。つまり、太陽電池からリチウムイオン電池に切り替わり、それがカラになって過放電する一歩手前で、微弱ながら充電するような指令を自分で出していました。》
 ここです。「はやぶさ」には補充電回路を自分でONにするプログラムは書き込まれていない。しかし、補充電回路は、なぜかONになり、「はやぶさ」の危機は救われた。
 もう一度言う。補充電回路をONにするためには、あらかじめ「はやぶさ」のプログラムにそれを書き込んでおくか、あるいは、地球から指令を送ってやらばければならない。そのどちらをもJAXAはやっていなかった。だが、補充電回路はONになった。
 これを奇跡と言わずしてなにが奇跡か。

 愚かな原子力村の科学者たちにも、天は奇跡を与えている。ニュースの記事を引く。
東京電力福島第一原発の事故で、日米両政府が最悪の事態の引き金になると心配した4号機の使用済み核燃料の過熱・崩壊は、震災直後の事故の不手際と、意図しない仕切り板のずれという二つの偶然もあって救われていたことが分かった。》
 事故の不手際、意図しない仕切り版のずれ、そして格納容器に水を張ったままにしておいたずさんな管理、この偶然が重なって、その水が燃料棒を置いたプールの水に流れ込んで崩壊する燃料を食い止めたのである。東電から金をもらっていた愚鈍な科学者が意図したものではない。偶然に偶然がもう一つおまけに重なったようなものだ。天、あるいは神の成せるわざというのは言い過ぎだろうか。
 原子力村の科学者たちは真摯に反省をして、天のいましめを噛みしめよ。そして、こんどこそ「はやぶさ」に負けないミッションを成功させてみろ。その程度の矜持がなくて、なにが科学者か!

 ああ、また怒りのモードに入ってしまった(苦笑)。
 
 口直しに、最後にもう一度、「はやぶさ」に戻す。
 今週末から、愛知県刈谷市で「はやぶさ」帰還カプセル特別公開
http://www.city.kariya.lg.jp/hp/page000303100/hpg000303098.htm
が始まる。関連のイベントとして川口淳一郎教授の講演会もある。すでに「はやぶさ」に関する本は何冊か読んでいるが、川口さんの肉声に触れることができるとは……楽しみだなぁ。