日曜日の午後に考えた

 来月から長期に旅に出る。その準備で只今大わらわ。午前中は所用で外出していたので、午後から「たかじんのそこまで言って委員会」を見ながら、荷作りを始める。途中、梱包材が足りないので近くのホームセンターに出向く。
 ワシャの家からホームセンターまで県道で一直線だ。5分とかからない。その上、最近、歩道が拡幅されたのでまこと走りやすい。
 快適に走っていると、県道から強引に曲がって、歩道に乗り上げてくる乗用車がある。常々「ゴルゴ13」を読んで、周囲に警戒怠りないワシャは、視界の端にその車を捉えていた。だからこっちに突っ込んできたとき、咄嗟にブレーキを握ることができた。おかげで、あやうく衝突を免れた。これが注意力散漫な子供や、運動神経の劣る老人だったら絶対に事故になっている。
「こら!」
 と怒鳴ったが、30前後の茶髪男の運転する乗用車はパチンコ屋の駐車場の奥に走り去った。追いかけて文句を言ってやろうかとも思ったが、梱包作業の途中でもあるし、「たかじん」も見たかったので、そのままホームセンターに行って梱包材やガムテープを購入して家に帰った。

 荷物の梱包は夕方までかかった。終わった時には、汗びっしょりになっている。こいつはひとっ風呂浴びねえと気持ちが悪くて仕方がねぇ。手拭いを肩に引っかけると、左手に本を3冊ほど抱えて風呂に入るのだった。

「♪庭に〜涼しく〜たたえた水に〜さっと降りくる〜夏の雨〜♪」

 風呂場の窓を全開にして、読書読書。今日は、一昨日の落語の話を引きずっているので、立川談春『赤めだか』(扶桑社)、立川談志『談志最後の落語論』(梧桐書院)、同じく『談志絶倒昭和落語家伝』(大和書房)の3冊を読む。

 ううむ、それにしても談志は名人だねぇ。併せて努力の人でもある。だから、優秀な弟子が数多育った。30人以上の人材を擁しながら、見るべき噺家のいない円楽党はえらい違いだ。
 それもそのはずで、円楽党の昇進の基準は非常に甘い。だから一門の噺家全体がぬるま湯体質になってしまった。

 そこへいくってぇと、立川流は厳しい。二つ目に上がるのでさえ、古典落語を50席覚えること、寄席の鳴り物を一通り打てること、講談の修羅場を話せること、踊りを2つ、3つ踊れること、とこれだけを求められる。これほど厳しい昇格基準は他にはあるまい。当代の林家三平(なぜか真打)では、立川流の二つ目すら受かるまい。

 立川流隆盛の背後には、やはり立川談志というカリスマの存在がある。談志は弟子たちに言う。
「他所は色々あるが立川流はなれ合いは好かん。俺は内容でお前たちと接する」
「俺にヨイショする暇があるなら本の一冊も読め、映画の一本も観ろ」
 ううむ、だから、談志は名人と言われ、談志の弟子たちはどんどん巧くなっていくわけだ。

 ワシャを轢きそうになった兄ちゃんも、昼日中からパチンコもいいけれども、そんな暇があったら本の一冊でも、映画の一本でも観た方が、いい人生を送れるような気がするのだが、それはワシャの気のせいなのだろうか。
 全開にした窓からパチンコ屋の方向を眺めて、露天風呂気分でそんなことを考えていた。