城址にて その1

 あべ静江のデビュー曲に「コーヒーショップで」という名曲がある。その中に「城跡の石段に腰をおろし、本を読んで涙する人もいた」なんていう詩が出てくる。36年も前の曲だが、今、聴いてもいい曲だな〜。でも、今時は、石段に座って本を読んでいる少女なんてめったにいないし、その上、本に感動して涙ぐんでいる女子高生など皆無だろう。古き良き昭和は遠くなりにけりですな。

 この曲の影響なのか、ワシャは昔から城が好きだった。それも天守閣というよりも城跡が好きだった。石垣と石段の他はなにもない空間に身を置くのが楽しい。そこにベンチでもあれば腰をかけて深呼吸するのである。城跡の空気を胸一杯に充満させると、その城跡のかつての風景が見えてくるんですね(ワシャは超能力者か!)。そんなふうに気ままに想像しながら歴史の遺構の中でぼんやりとしているのが面白い。

 ちょいと所用で滋賀県に行った。1時間ほど時間が空いたのですぐ近くにある小谷城(おだにじょう)を訪なう。
 北陸自動車道を福井方面から走ってくると木之本インターと長浜インターの真ん中くらいで、西の小さな丘に「小谷城址」という看板が見える。その名のとおりの小城だと思っていた。しかし、それは間違っていた。
 看板の立っている小山は総延長4キロにも及ぶ大城郭の最南端にある出丸だった。小谷城はその背後に延々と連なる長城だったのだ。
(下に続く)