官僚批判 その1

 66年前の昨日、神宮外苑で文部省主催の「出陣学徒壮行会」が雨天をついて挙行された。臨席したのはエリート軍官僚から首相になった東條英機である。東條を筆頭とする無能な秀才たちのために、学徒たちの多くがパイロットの速成教育を施され、特別攻撃隊の要員に仕立て上げられた。

 そのあたりのことを書くために、北影雄幸『特攻の本』(光人社)、赤羽礼子/石井宏『ホタル帰る』(草思社)をパラパラと繰った。繰りつつ朝の4時から書斎で泣いてしまった。
 南溟(なんめい)に散った若き学徒兵の日記が載っている。
 2週間ほどで入隊をするその日に、彼のささやかな送別会が開催された。大学の恩師や同級生にまじって、彼の恋人もいた。大切な時間はまたたく間に過ぎ、恋人との駅のホームでの別れがやってくる。
《無言のまま、彼女が手袋をとった手を差し出した。万感の思いをひきしめ、しっかりとその手を握り、じっと瞳を見つめる。愛する人の感触が、ほのぼのと伝わってくる。》
 学徒兵は、恋人にキスすることもなく戦場へ征き、特攻隊として散華する。
 また、別の学徒は、世話になった食堂のおばちゃんに「おれの余した三十年分の寿命は小母ちゃんにあげる」と言い残して南の空へ飛び立って戻ってこなかった。

 彼らは優秀である。様々な情報から判断して、祖国が存亡の危機にあることを知っていた。だから「生きたい」という命の叫びを封殺して、恋人を、家族を守るために片道燃料のゼロ戦に乗ったのだ。特攻戦死者数4379人、すべて若者である。
(下に続く)