うどん処「す奈は」 その2

(上から続く)
 さて、店の中をゆっくりと観察したいところだが、ブックオフに立ち寄った後なので、手を洗いたい。店員に洗面所の場所を聞く。そこで手を洗って、席に戻る。 ゲゲゲ!もうワシャの席には大きな海老天ののった「山かけ天ころ」が鎮座しているではあ〜りませんか。
「早い」
 カウンターの中でうどんを湯がいているオヤジを見ると、ニヤリと笑った。
 うどん待ちで読もうと思っていた新書も、店の観察も後回しだ。とにかく目の前の「山かけ天ころ」に集中だ。
 ううむ、どんぶりは浅めだ。そこに太目の手打ち麺が薄い色のつゆに浸っている。その上にきざんだ細ねぎと糸のり、玉子の黄身と山芋の粗おろし、中央にはカラッと揚がった海老天が横たわっている。そしてどんぶりの縁には少し多めの練りワサビが添えてある。
 ううう……しげしげと観察している場合ではない。いただきまーす。
 食事中…食事中…食事中…
「うまい!」
 こしのある冷たい太麺に甘めのつゆがほどよくからんで、ワサビの辛味と、ねぎとのりの風味、玉子の甘さ、山芋の濃厚さが相まって、絶妙の味をかもし出している。賞味3分の至福の時間であった。
 ワシャが席に着いたときに入店してきた60代のおじさんは、ワシャの隣りに座ると「天ころ」を注文していた。ワシャが手洗いから戻ったときには、おじさんは食べ始めていたので、ワシャが食べ終わるころには、楊枝をくわえて立ち上がっていた。なんという素早さだ。90秒かかっているかいないかの時間で完食している。もしかしたら「天ころ」食いの名人かもしれん。
 達人とまではいかないが、ワシャもうどんを分殺で片付けて、腹もくちたのでようやく周囲を見回す余裕が出てきた。
 おおお、カウンターの前の台(?)には揚がったばかりの海老天が、大きなトレー3杯に盛り上げられている。カウンターの向こうの調理場では3人の職人があわただしく立ち働いている。見回せば、正午を過ぎたばかりだというのに、満席になっていた。そして、いろいろなメニューがあるにも関わらず、客は「天ころ」しかオーダーしない。
 むむむ……この店、店構えからは想像できないくらい特殊な店だった。美濃にお出かけの際は、ぜひ、立ち寄ってみてください。