小田原評定

 御前会議があった。社長、副社長、関係幹部などお歴々が居並ぶ会議だ。ワシャの所属するプロジェクトチームにも関わる話だったので、ワシャも呼ばれて末席に座っていた。
 会議の内容は言えないが、3月初旬に社長からある新規事業についての提案・指示があって、副社長以下で何度も検討会を持ち、内容を吟味した結果、現段階では実施が難しいことが判った。その結果を踏まえての会議だから、社長提案をひっくり返すことになる。だから、幹部たちは想定問答をつくって臨んでいる。社長がこういったら、こう弁明しよう。社長がこう切り返してきたら、こう言おう。一堂が緊張していた。
 社長が最後に入室し会議は開始された。冒頭、社長がこう言った。
「現在の状況や社の現状を考慮すると、今回の事業についてはもう少し時期がくるまで見送りたいと思い直した」
 末席でワシャはホッとした。社長は独自の判断で事業着手を断念したのである。会議の目的は達成された。さぁ、事務室に戻って仕事仕事……
 ところが、一人の幹部が立ち上がった。
「社長の仰るとおりです。本事業を中止するのはいいと思います。ただですね。それに対するメリット、デメリットを考えますに……」
 自称優秀な社員のその幹部は朗々と話を始めた。一人が口を開けば、遅れてはならじと他の幹部も、メリットはどうの、デメリットはどうだ、他社の動向はこうなっている、などと議論が展開していく。
 おいおい、結論は出ているんじゃないのか。何をみんな言っているんだ。小一時間、会議を続けて結論は「今回の事業についてはもう少し時期がくるまで見送る」というものだった。ワシャの一時間を返してくれ。

 北朝鮮がポテチン2を発射した。ワシャが本屋に行っている間に、日本上空をひょろひょろと通りぬけていって太平洋のどこかに落っこちたらしいから、全然、気がつかんかったわい。くどいようだが北朝鮮の所有する長距離弾道ミサイルは、日本がしっかりとしたミサイル防衛システムを構築すれば大して脅威ではない。問題は発射までの準備時間の短いノドンの方なのだ。これに対する迎撃システムを急ぎ考えなければ日本は火の海になる。
 この発射をうけて日本政府は国連安全保障理事会の開催を要請した。とほほ、安保理で何を決議しようと、北朝鮮にはカエルの面に小便だわさ。過去の北朝鮮に対する決議だってほとんど踏みにじられているわけだし、今更、既存の制裁の厳格な履行を求める決議をしたって、ほとんど体を成さないだろう。
 こんな小田原評定をいくら繰り返したって時間の無駄だ。