スタンド決戦 その2

(上から読んでね)
 ちょうどワシャらの後の200席ばかりを数人の男の人がタフロープで仕切って押さえていた。後発隊が東京から悠々とやってくるのそうだ。でもね、その周辺はびっしりと他団体が入りこんで、そこだけぽっかりと空いているのがよく目立つんですな。それに指定席脇の上等席だから、人も次々と押し寄せて来る。席を確保している男の人は、階段のところに立ちはだかって、
「ここはもう満員です。東のスタンドに空席がありますからそちらにお願いします」
と弁解をしている。100人の内70人はそう言われると、スタンドを下りて行くのだが、残りの30人は
「何で自由席なのにお前らが仕切っているんだ。空いているじゃないか」
と文句を言う。
「もうそこまで仲間が来ています。申しわけありません」
と更に弁解し平身低頭して下がってもらうのだが、30人中5人は、
「何を言っていやがるんでぃ、ここは自由席と決まっている。自由席と言うのは早い者勝ちだ。こっちゃの三河の衆を見てみろ。皆さん、行儀よく坐っていなさるじゃねえか。ところがどうだ、てめえっちは誰も来ていねえじゃねえか。お前ら5人は早朝からここで頑張っているんだから、坐る権利はある。しかし、ここにいねえ連中には坐る権利なんざぁありはしないのさ。さっさとどきやがれ」
 てな具合で、スタンドのあちこちで小競り合いが始まる。東京の団体が確保していた200席は徐々に侵食され半分くらいになってしまった。ようやく東京から本隊が到着したのは9時半を回っている。後発隊のリーダーは席取り係のオジさんに「席が足りないじゃないか!」と怒っていたけど、そりゃぁ気の毒だ。怒涛のように押し寄せる観客にボロボロになりながらも100席を死守したのだ。席取りさん、よく3時間持ちこたえた。
 席は足りない。だから席取りさんの席はない。仕方がないのでワシャらの端っこにいれてあげたのじゃ。席取りさんは後からのこのこやって来た東京の仲間より、3時間を一緒に雨の中で耐えたワシャらに親近感を持ったようでした。めでたしめでたし。