深夜のワシャ家は大騒ぎ

 昨夜、11時を回った頃だった。書斎(物置ともいう)で書見をしておると、嫁が顔を出して「トイレの水が出なくなった」と言うではないか。「どれどれ」ということで、トイレに行ってタンクの蓋を外して中をのぞく。タンク内に水がまったく溜まっていない。特段、変った様子はないが、なぜだ。排水弁にもフックにも異常はないし、オーバーフロー管は大丈夫だ。フィルターは……と、ワシャはうっかりフィルターを回して外してしまった。
 おおおおおおおおお!
水がぽっかりと空いたフィルターの口から
「どっどど どどうど どどうど どどう」
吹き出した。
ワシャはあわてて手で押さえたのだが、水の圧力は思いのほか強く、トイレ中が水浸しになっていく。水が止まらない。ワシャは大和の工兵か。
「水の元を締めるのじゃー!」
 嫁に的確な指示を出した時も手の隙間から水はあふれてくる。ちょっと油断をしたら水が飛んで、トイレの本棚の上に飾ってあった青いくるみを吹き飛ばした。
「どっどど どどうど どどうど どどう」
 ワシャは水の又三郎か?
 しかし、嫁は何をしておるのじゃ。早くそこの止水栓をドライバーで締めてくれ。しかし、ワシャの周辺に人の気配はしない。どうやら嫁は屋外の水栓を締めに行ったらしい。
 ずいぶん長い間、フィルターの口を押さえておったような気がする。事実、右腕が筋肉痛になってしもうた。
 まもなく水は止まり、フィルターを装着し一安心なのだが、ワシャ家のトイレは集中豪雨の床上浸水のような状態になっていた。本棚の書籍も水の飛沫を浴びて濡れ鼠になっている。
 夜中に大騒ぎをして眠気が吹っ飛んだわい。おかげでもう少し勉強ができる。やれやれ。