梅雨の訃報

 仕事でお世話になったT氏の訃報が舞いこんだ。享年58歳、まだまだこれからという年齢だが膵臓ガンに冒され、2年の闘病の末についに力尽きてしまった。
インテリア関係の会社を経営しており、地元のまちづくりでもボランティアの先頭に立って活躍されていた。アクティブな人物でどちらかと言えば(どちらかと言われなくても)灰汁の強い人だった。それだけにそう簡単に亡くなるとは思ってもみなかった。
 数年前に仕事のことでへこんでいた時期があった。その時にT氏に救われた。なにしろ褒め上手な人で飲み屋に連れて行かれては、「あんたが頼りだ」、「あんたは仕事ができる」、「あんたみたいな社員は今までいなかった」などなど見え見えのお世辞に豚もおだてられて木に登ってしまった。しかしそのお陰で自信を取り戻しなんとか復活を果たしたという経緯がある。ワシャの肩をバンバンと叩きながらウイスキーをぐいぐいと飲んでいくあの豪快な飲みっぷりがもう見られないかと思うと少しばかり寂しい。
 最初の入院時に見舞に行った。連日の検査漬けでかなりやつれており、それに痛みもあるらしく会話らしい会話はできなかった。それでも帰り際に搾り出すような声で「治ったら飲みに行こう」と言われた。「もちろんTさんのおごりですよね?」ときり返すと、T氏がベッドの上でうれしそうに笑っていたのを鮮明に覚えている。
 もちろんその約束は反古になった。
T氏、活動的な人だったから彼岸でもきっといい店を探し当てるに違いない。その時に約束を守ってもらうことにしようっと・・・