一、天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令よろしく朝廷より出づべき事
一、上・下議政局を設け、議員を置きて万機を参賛せきめ、万機宜しく公議に決すべき事
一、有材の公卿・諸侯及び天下の人材を顧問に備え、官爵を賜い、宜しく従来の有名無実の官を除くべき事
一、外国の交際、広く公議を採り、新たに至当の規約を立つべき事
一、古来の律令を折衷し、新たに無窮の大典を撰定すべき事
一、海軍宜しく拡張すべき事
一、御親兵を置き、帝都を守衛せしむべき事
一、金銀物資、宜しく外国と平均の法を設くべき事
以上は坂本竜馬が長崎から兵庫へ向かう土佐の藩船「夕顔」の船内において起草した「船中八策」である。この策は竜馬から後藤象二郎(土佐藩参政)を経て山内容堂(土佐藩主)に届けられ、容堂から幕府に建白された。これが長州の桂小五郎と薩摩の大久保一蔵との間で策謀されていた「倒幕盟約の発行」にわずかに先行したことで、歴史の流れを大きく変え大政奉還へとつながっていくのである。
あの国難の時代、重要人物ではあったが一介の草莽の志でしかなかった竜馬の策を国策として採択するというダイナミズムがあった。またその柔軟さが日本に押し寄せていた欧米列強の侵食を食い止めたと言ってもいい。
このことから現在の日本を考えると、政令宜しく政府より出ているし、衆参両院で形だけは万機公議に付されてはいる。ただ有用な人材を登用しているかと問えば、残念ながら一部を除けば政治家たちの質は低下の一途をたどり、有名無実の官は霞ヶ関だけにとどまらず天下りと称し増殖して国の財政を食い荒らしている。諸外国との関係は、公議を採らず有力政治家の腹芸に任せていたために、毅然とした規約を立てずうやむやに金ばかりを与えてきてしまった。このため領土は蹂躙され日本人は舐められっぱなしである。律令を取捨選択することをせず、海洋国家であるにも関らず海軍力を軽視し、ミサイルを突き付けられ帝都を守衛することすらおぼつかなくなっている。外国との付き合いも国益を考えて、貢ぐばかりではなく平等に付き合おうよ・・・とワシャではなく竜馬が言っている。
140年前の欧米列強からの領土侵害に際して、多くの心有る若者が立ちあがった。夥しい血を流しはしたが、おかげで危機的状況から日本は救われた。もうそろそろ竜馬は現われぬか?
竜馬は慶應3年の今日、「船中八策」を携えて兵庫港に上陸する。