狂気のサタカ

 夕べ、望月衣塑子+佐高信『なぜ日本のジャーナリズムは崩壊したのか』(講談社+α新書)を読んでしまおうと思って、風呂に持ち込んだ。湯船に浸かりながら読む本でもないけれど、せっかく買ったんだからと、妙な欲が出てしまった。

 ところがどっこい、風呂場で何度も大笑いをさせてもらった。佐高氏の低レベルの駄洒落で笑ったのではない。あまりのバカバカしさに腹がよじれたのだった。このおもしろさは著者たちが予期していたものではなく、健全な思考力がある人や、お花畑思想に染まっていない人にだけ伝わる面白味であって、佐高ファンの方々には、絶対に理解できない類の嗤いである。例を挙げよう。

《四月十二日の『サンデーモーニング』(TBS系)で、私が安倍が首相になったこと、あるいは首相であること自体が日本にとっての緊急事態だとコメントしたら、またぞろネットで騒がれているようですが、なるべきではないボンボンが首相になってしまったという、日本社会の悲劇でしょう。》

 佐高氏の発言、文章は感覚的過ぎて、説得力がない。「ボンボン」が首相になれないとしたら、資産がある家に生まれた人間には首相になる資格がなくなってしまう。では「ボンボン」ではない菅首相や菅元首相ならばいいのか?というとそうでもない。要は感覚で喋っているだけだなら、中身がスカスカということなのだ。

 なにしろ佐高氏も望月氏も、2020年の10月段階で、まだモリカケにこだわっている。粘液質だから仕方がないんだが、いくらなんでもカビが生えているし、望月氏が大騒ぎしていた頃に比べると、国民の眼に見えなかった部分が、かなり顕在化していて、「今さら何を言っているのか」感が否めない。

 さらに安倍前首相を貶める記述にこんなものがある。

《私は小泉純一郎(元首相)を単純一郎と冷やかしたものですが、小泉が後継者にしてしまった安倍は、単純の三乗、あるいは四乗のような単細胞であり、複雑な思考に耐えられません。》

 はっきり言って、佐高氏が何を根拠にして誹謗しているのかが理解できない。さらにこう継ぐ。

《この安倍政権という日本の緊急事態において一刻も早く安倍には退場してもらわなければ、それこそ、私たちの命は捨て置かれ、危うくなるのは自明です。》

 多くの国民が安倍政権を支持していた。佐高氏が応援しているサヨク系の政党は数%の支持もないではないか。さらに言えば、佐高氏が持ち上げる菅直人氏は、日本を破滅の淵に追い込んだ戦犯ではないか。何をもって「自明」なのか理解できない。

現代日本の病根を、徹底的に明らかにしていきたいと思います。》と、意気込んでいるが、ならないって。

 病巣とはまったく見当違いの部分を指さして「ここを切り取れ」と言っている藪医者どころか、通りすがりの口汚い駄洒落好きのジジイというところだわさ。

 もう突っ込みどころ満載な本なのだが、書き切れないので、最後の大嗤いを示して終わることにする。

 歌舞伎町の出会い系バーに足しげく通っていた「面従腹背」と公言してしまったトンデモ官僚の前川喜平氏を、これ以上はないくらい持ち上げているのである。ある意味でその現実離れさが恐ろしい。

 アホの佐高氏は言う。

《前川さんが出会い系バーに調査のために行ったという言い訳は、「それはないだろう」と。たしかに「それはないだろう」という話なんだけど、でも前川さんが姿を現して語り始めた途端に、「たしかにそうなんだろうな」と思えたよね。》

 思えるか!

 アホは続く。

《つまり前川という人の存在感が、つまらないスキャンダルを消したし、吹っ飛ばしたし、権力とメディアの醜い密通をあぶり出した。そこがすごいなと思う。》

 すごかぁねえよ。文部科学省の事務方トップが銭を出して女を買っていたことに言い訳なんか効くかい。「つまらないスキャンダル」どころか、文部科学行政の大変な汚点である。

 この佐高発言に望月氏がこう応じる。

《「そういう調査のために出会い系に行くというのも、この人ならありそうだな」と。》

 バカか!

 バカは続く。

《前川さんが醸し出している清潔感がそう思わせるようになったということですね。》

 これがジャーナリストの発言だろうか。前川氏が密かに通い続けた出会い系バー、文部科学事務次官がオッケーなら、普通の庶民はみんな「調査」のために大手を振って行けばいい。

 ワシャは、前川氏が「清潔感」があるとはちっとも思わない。が、望月氏にはそう映るのだからやむを得ないけれど、不潔感が漂う人だって「調査」に行くかもしれないじゃん。一新聞記者の清潔、不潔の物差しで、人を差別してもいいのか。見た目、個人的な印象だけで、ジャーナリストとあろうものが、「この人ならありそうだな」なんて信用してはいかんでしょう。

 バカはさらに続く。

《前川さんは、歌舞伎町で出会い系バーに行って日銭で稼ぐ女の子がいる状況を何とかしてあげたいと心から思った。前川さんの場合、そこに「あわよくば」はないわけですよね、徹底的に。》

 おひおひ、文部科学事務次官なんですよ、彼は・・・。そう思ったなら文部科学政策のなかで考えればいい。それだけの力を事務次官は持っている。文部科学予算の中で、その程度の実態調査など、年度末の差額の範囲、誤差の中で充分にやれてしまう。それを極秘で自腹で行くというのは、かなり後ろめたいものがあったんじゃないの。

 百歩譲って「あわよくば」はないかも知れないが、前川氏の場合「性欲ば」は徹底的にあった(笑)。

 いかん、最後は佐高氏が乗り移ってしまったわい。くわばらくわばら。

 

 おまけ。

 英国の批評家のケネス・タイナンが言っている。

「評論家とは、道をよく知っているが、自分では運転できないような人である」

 道も知らず、助手席を占拠して駄洒落を喚き散らし運転を妨害する人だけにはなりたくない。タイナンはそう言っている。