昨日、友だちに誘ってもらって東京に出かけた。それこそ数年前までは、月に1〜2度は上京していたものだったが、このところ西三河に引きこもっていた。やっぱり行けば行ったで楽しい。
ハードスケジュールであった。始発のこだまに乗り、午前9時30分には丸の内南口に立っていた。始発でも到着は9時半かよ。やっぱり愛知県は遠いなぁ。
丸の内でタクシーを拾う。風薫る皇居を左手に見ながら内堀通りを走って、東京近代美術館にむかった。
「安田靫彦展」
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/yasudayukihiko/
である。
司馬遷の『史記』の「呉越列伝」にこんなエピソードがある。
戦国春秋時代の呉王が兵法家の孫武の力量を試そうと、後宮の女たちを集めて指揮を執れと命じた。孫武は、寵姫を筆頭にした180人を庭に集め、二つの隊に分け、王の寵姫を隊長に据えた。しかし後宮の女たちは、王の戯言、遊びごとの延長だと思って、孫武が軍律を五度繰り返しても、どっと笑うばかりで命令に従わなかった。これに対し孫武は「兵が軍律に従わぬのは、隊長の咎である」と2人の首をはねて女たちに見せてまわった。
次に選ばれた寵姫は、笑わずきっちりと軍律どおりの所作を配下に行わせた。この伝を「孫子勒姫兵」(そんしろくきへい)と言う。
これが安田靫彦の画題として取り上げられている。上記のURLをクリックしてもらって少し下に送ると「孫子勒姫兵」が出てきます。右手に剣を持って立つのが孫子、鮮やかな赤の衣をまとって群れているのが寵姫たちである。凄まじい迫力の絵である。先頭に立って、孫武をあざ笑う寵姫、毅然とした表情を見せている孫武。緊張の一瞬がみごとに切り取られている。
もう一つは「鴻門会」(こうもんのかい)と題されたもので、これも『史記』から採られている。入り組んだ話は端折るけど、要は、天下を狙っている項羽と劉邦が秦の都に攻め入ってそこで会見をするというエピソードで、劉邦の運の良さを懸念した項羽の部下が、剣舞にかこつけて劉邦を暗殺しようとするのだが、劉邦の部下の樊噲(はんかい)が駆け込んで窮地を脱する……その瞬間を切り取っている。この絵もさまざまな朱を駆使しながら劇的な場面を再現している。
安田靫彦の「鴻門会」はこれです。
http://search.artmuseums.go.jp/gazou.php?id=2642&edaban=1
上記をご覧いただくと、剣舞を舞う男たちの緊張感のようなものが伝わってきませんか。