曙や白魚しろきこと一寸

 芭蕉の句である。『野ざらし紀行』の中に入っている。先般、歌舞伎座に行ったときに時間があったので深川にある芭蕉記念館を訪った。清澄方面から萬年橋を渡り200mほど行った先、隅田川を背にして記念館は建っている。そこの2階の展示室にこの句が掲出してあった。芭蕉の時代には、隅田川で白魚が獲れたというから、いい時代だったんですね。
 三代目の桂三木助の十八番に「芝浜」がある。三木助はこの噺の枕に白魚の話を必ず持ってくる。たまたま三木助の「芝浜」を読んでいて、この句が出てきたので、ちょいと驚いた。先(せん)に見たものが、ひょいと出てくると、こいつぁなんだかご縁があるわぇ、ということで言葉への親和性が高まるのだ。
 その枕で、三木助は白魚を食べている。
《「あいよ」てんで、盃洗を出してやりますと、この中へ泳がしてくれます。これを箸でつまんで、醤油に中へ入れます。》
 醤油(しょうゆ)のことを「したじ」と言っています。「したじ」って言うのがいかにも江戸っ子のようでいいじゃありませんか。
《白魚は水と醤油の見わけがよくつきませんから、これを、ぱくッと、こう、のみこみます……こう醤油が入るのが透きとおって見えたそうですねェ……。これを口ィ入れまして、前歯でぷつんと噛みますと、口ン中ィいい具合に醤油がひろがりまして、なんともいえない味なんだそうでしてなァ》
 これを身振り手振りをつけて演じるわけですから、観ているお客さんも「ゴクリ」と唾を飲んだりしてねぇ。