福島第1原発と日露戦争

 今回の福島第1原子力発電所の対応を観察していると、日露戦争の旅順攻撃とオーバーラップしてくることが多い。

 陸軍第3軍の司令官、乃木希典は精鋭部隊を率いて旅順要塞の攻略をする。
 かたや東電軍団の司令官、勝俣恒久原発要塞の鎮圧を使命として混成部隊を展開している。

 乃木は、最前線から大きく後退した場所に司令本部を立ち上げて指揮をとっていた。このために、いつまで経っても旅順要塞を落とせず、第3軍の将兵の損耗率は激しいものとなってしまう。
 勝俣は、最前線から大きく後退した東京で司令本部を立ち上げて指揮をとっていた。このため勝俣は、いつまで経っても原子炉を鎮圧することができず、現場担当者の消耗は激しい。その上、周囲の土壌、海洋、住民、農作物への影響は計り知れない。

 乃木は、この戦いで二人の子供を亡くした。そして、大葬のとき、自らの腹を掻っ捌いて大帝のお供をして彼岸に旅立った。
 勝俣は、この闘いで「自分の財産はプライベートなものなので供出しない」と言い切り、社長の清水は腹を切ることもなく入院してしまった。

 日露戦争は、有能な政治家たち、優秀な官僚たちの先手先手と打った石が功を奏し辛うじて勝利を得ることができた。
 福島クライシスは、無能な政治家たち、低劣な官僚たちの後手後手に回った対応が祟って制御不能となり、全世界から汚染国家のラベルを貼られてしまう。

 日露戦争後、大衆は綱渡りで勝利したことも知らず賠償金の多寡で不満を募らせ、その後の軍部独走に拍車を掛けた。
 福島クライシス後、これは何年後になるのか何十年後になるのか分からないが、国民はきっちりと敗北を受忍し、日本国の再興のために一丸となって努力し、100年後には世界から尊敬される上等な国家になったとさ。

 となればいいのだが……。
 さて、このパラレルな物語にはサイドストーリーがある。

 旅順要塞の攻略で、乃木が窮地に陥ったとき、バックアップ態勢が充実していた。「陸の大山、海の東郷」と並び称された大山巌が元帥として上司にいたし、降格人事に甘んじてまで乃木をフォローした名将児玉源太郎がいた。
 福島第1原発の鎮圧で、東電は窮地に陥ったが、首相を始めとする無能な連中に足を引っ張られた。「利己のアホ菅、膿の仙谷」と並び称された奴らがいるんだから、あながち東電ばかりを責められないかもしれない。というかすでに東電などという一企業の手に負える範囲を超えてしまった。アホ菅、どうする。バカゆえに百年の禍根を残すか。