(上から続く)
その後はキャリーバッグの中から、狐の面やわらじを出し、
「イベントでお嬢さんにこんな格好をさせてしまって申し訳ありません」
と新婦側親族にお詫びをした。そしておもむろに新郎に体を向けて、こう付け加えた。
「新郎に申し上げたい。こんな素敵なお嬢さんは金(かね)のわらじを履いて探してもなかなかみつかるものではありません。ちなみにこれは藁のわらじですが……」
これはわらじをかざすタイミングを間違えて滑ってしまった。
結びに、キャリーバッグから「男はつらいよ」のシナリオを出す。そして、そのクライマックスの部分を読む。ほろりとくるいい場面で、会場が水を打ったように静まりかえる。
このタイミングを外してはいけない。「時は今」なのだ。
「おんやぁ?」
とぼけたワシャの声が披露宴会場に大きく響く。こういう時にハンドマイクは使える。カラオケに行って練習しておいてよかった。
「こんなところに『寅次郎相合い傘のDVD』が入っていましたぞ」
と、キャリーバッグから寅次郎とリリーの表紙のDVDマガジンを取り出して、高々とかざす。今回は成功だった。会場からどよめきが起きたのだ。そして、そのDVDをご両人に手渡すと会場から割れんばかりの喝采が起きた。
脇のスタッフ溜りを見ると、ワシャに困惑顔を見せた会場係のニーチャンも泣きながら拍手をしていた。時間は16分を超えていたが、面白かったでしょ。
自席にもどって、式はその後もつつがなく進行していったが、ワシャは高まったテンションをクールダウンするのに20分程かかった。とにかく神経が極限まで張っている。これを緩めないと酒も飲めない、といいながらワインをチビチビ飲んでいましたが。
宴の途中で、新婦の父上がワシャの席に立ち寄られた。くだけたスピーチのお詫びを素直にさせていただく。
「いえいえとても心のこもったご祝辞で感動いたしました」
と深々と頭を下げられた。あ〜、夕べ深夜まで練習をしておいてよかったとつくづく思いました。
3時間の結婚式・披露宴が無事に終了し、式場の外に出る。昼の式なので、まだ午後2時である。天気がよく暖かい。いい結婚式日和である。
おっと、祝辞大成功のお礼をお伊勢さんにしておかなければいけない。ワシャは南西の方向に姿勢を正し、二拝二拍手一拝をしたのだった。めでたしめでたし。