謹賀新年の長い挨拶

 明けましておめでとうございます。三河の国は、天気は晴朗、風は穏やかです。皆様におかれましてもつつがない初春をお迎えのこととお慶び申し上げます。本年も引き続きましてよろしくお願いいたしますね。

 さて、一年の計は元旦にありと申します。だから、ワルシャワは気分一新するために朝から黄色のシャツに黄色の靴下、ベージュのズボンにウコン色のフリースを着ているんですね。スリッパまでこだわってベージュ色のものを履いております。美輪明宏さんが「黄色は幸運の色なのよ」と言っていたの真に受けたんです。
 この出で立ちで、書庫(整理整頓された物置ともいう)に入って、すでに読み初めをいたしました。平成23年の第1冊目は、田中卓皇国史観の対決』(皇學館大學出版部)です。新春の日の出に手を合わせた後に読む本としてはこれほど相応しい本もなかなかあるものではありません。
 田中先生は言います。「皇国護持史観」と「皇国美化史観」とを混同してはいけないと……すいません、新年早々、堅苦しい話になりそうなので、話題をかえますね。

 昨日、大晦日の町に本を買いに出ました。ワルシャワの年間購入目標冊数まであとわずかだったので、なんとかノルマを達成しようと思ったんです。でもね、なんでもかんでも闇雲に本を買えばいいというものではありません。少なくとも手に取って「およよ」と思えなくては金を捨てるようなことになってしまいます。一軒目の本屋で、随分時間を費やしました。でも、なかなかいい本が見つかりません。店内をうろうろすること10分でようよう手にしたのが月刊誌の「オール読物」でした。
 これが当たりだったんです。表紙に「司馬遼太郎の凄味」とあります。「宮城谷昌光×江夏豊」とある。「司馬遼太郎」というキーワードはワシャの中では本購入の第一番のインセンティブなのです。速攻で購入いたしました。
 普段は「オール読物」など購入しません。何人もの作家が居並ぶ文芸誌は文体がまちまちになるので、ワシャ的には読み難い雑誌だからです。でも、「総力特集」で55ページも司馬遼太郎に割いてあれば話は別で、新年の第二冊目として読みましたぞ。

 いやー、平成23年早々に司馬さんと宮城谷さんに思い切り厳しい一発をくらいました。
 司馬さんの名作に『翔ぶが如く』があります。西郷隆盛大久保利通が力を合わせて明治政府の根幹を確立する道程を描く長編小説です。そのことを話題に出して宮城谷さんは言います。
《私は『翔ぶが如く』というタイトルを聞いたときにも、すぐ中国の最古の詩集『詩経』の中にある、「鴻鴈の什 斯干(こうがんのじゅう しかん)」という詩を思い出しました。》
 思い出しましたって……宮城谷先生、ワルシャワはまったく思い出しまへんで。『詩経』の上っ面は舐めましたが、それでは駄目ってことなんですね。まだまだ、勉強が足りないんですね(泣)。
 宮城谷さんは続けます。
《如鳥斯革(鳥のこれ革〈と〉ぶが如く)如翬斯飛(翬〈きじ〉のこれ飛ぶが如く)この詩の 内容は、兄弟が仲睦まじくいていて、彼らが新しい家を建てる。その新しい家に兄弟は住むのにふさわしいといった、おめでたいものです。》
 つまり司馬さんは、もちろんこの詩を諳んじるほどに知っており、この兄弟を西郷と大久保に見立て、新しい家を明治国家になぞらえて『翔ぶが如く』という題を考えたということです。今日の今日までそんなことも知らずにワルシャワは『翔ぶが如く』を愛読していたわけで、情けないことこの上ない。そしてそのことを看破した宮城谷さんも凄い。ご両所とも知の巨人と言っていいでしょう。脱帽です。なんだか新年早々また新たな課題をいただいたようで、それはそれで嬉しいのですが、とても大変な一年になりそうな気がしています。
 また、『のぼうの城』の和田竜さんが11,000字に及ぶ「死ぬほど面白い司馬遼太郎」というエッセイを上梓しています。これはある種の司馬文学論であり、かつ時代小説の書き方にも触れられいます。
 和田さんの興味深い指摘を一つ。司馬さんの「竜馬」を俎上に載せてこう言います。
《アクションヒーロー物の主人公には必ずこの要素がある。一風変わっているが稚気があり、このことで観客たちは主人公を愛するようになる。この場合、不可欠なのが、それをそばで見ていて驚いたり、必死に制止したりする「驚き屋」の存在である。》
 この「驚き屋」の指摘には目から鱗でした。漠然とは、そういった存在が物語の展開上必要であろうとは思っていましたが、「驚き屋」ですか。「驚き屋」ですよね。別の言い方をすれば「狂言回し」ということになるのでしょうか。物語の構成の妙がすーっと入ってきました。
 さて、長くなってしまいましたが、新年早々、そんなことをして楽しんでおります。そうそう、近所のブックオフが大売出しをしていると聞きました。そろそろ書初めに限をつけて本の買い初めに走りたいと思います。

 それでは本年もよろしくお願いいたします。