卑劣な男

 夕べ、テレビを見ていたら、鑿で刻んだような鋭く細い目を持った老人が記者からインタビューされていた。それにしても灰汁の強い顔だ。テロップが出た。「西山太吉(78)元毎日新聞記者」とある。ああ、あの西山さんか……。

 ニュースは東京地裁で行われた日米で交わした「密約文書」をめぐる情報公開訴訟のものだった。その原告として西山太吉元記者が画面に登場したのである。西山元記者を見た瞬間、何かの事件の犯人かいなと思ってしまったほど人相がこわい。
実は、このエネルギッシュな爺さん、只者ではなかった。ワシャはこの爺さんのことを、日垣隆『秘密とウソと報道』(幻冬舎新書)で知った。この本を読むとわかるが、西山元記者、けっこうタチが悪い。詳しくは『秘密とウソと報道』を読んでもらうこととして、それでもざっと説明すると、こんな人物だ。
 当時、外務省番の西山記者(30)が外務省の機密を入手するために審議官付きの女性事務官(41)を篭絡した。9歳も上の人妻を口説いてモノにする。その上で審議官が見る前の沖縄関係の機密文書を入手し、新聞にスクープとしてすっぱぬいた。西山記者は、善良な女性をスパイとして使い捨ててしまった。その女性は社会的にも家庭的にも抹殺されてしまうのだが、すべては西山記者の功名心のためにである。
 西山記者のダメなところは、その後、この女性に対して何ら責任を取らなかったところにある。日垣さんはこう書いている。
《警視庁に出頭すると言う彼女に、西山記者はこう言ったそうだ。
「社をやめても君を助ける」
だが、この言葉はまったく実行されなかった。》

 西山元記者は、卑怯な男だった。
 歳をとるとその生き様が顔に現れるというが、テレビで見た元記者は、どうみても枯れたジャーナリストには見えない。モノに対する執着から逃れられない土地成金の因業ジジイといったところがお似合いである。
 証人に立った元外務省アメリカ局長(91)は、原告の西山元記者についてこう語った。
「彼がたくさんの費用と時間を費やして裁判に挑んでいる。信念の強さに感心していました」
 違うね。
 裁判に対する執着も、女性事務官に対する執着も、この爺さんの粘液質な性格が露呈されているに過ぎない。こういうジジイにもっともらしい居場所を与えてはならないと思った。