笑顔

 昨日の「真相報道バンキシャ!」は、爆風スランプファンキー末吉が、北朝鮮の少女たちに敵性音楽であるロックンロールを指導し、メキメキと上達をしていくという、ちょいとした「スイングガールズ」調に仕上っていた。途中で隣接の軍事施設からの横槍が入るなど、緊迫感も折りこみながらのドラマ仕立てでそれなりに愉しめた。
 もちろん北朝鮮国内で当局の許可のない撮影など不可能だし、ピョンヤン市内の中学校で日本人が行う活動を当局が把握していないわけがない。つまり、この密着報道のほとんどが北朝鮮当局の手の内で踊らされているに過ぎず、「北朝鮮はここまで開放的になっていますよ」というプロパガンダ以外のなにものでもない。そんなことは百も承知でテレビを見ていた。
 ファンキー末吉ピョンヤン空港に降り立ち、少女たちの待つ中学校へと案内される。女子中学生たちはみんな化粧をしていて、どの子も可愛らしい。そして例の歓迎の作り笑顔を満面に湛えている。いつもと同じだ。
 そして、彼女たちがファンキー末吉を歓迎するために演奏した曲は退屈な「赤とんぼ」だった。まぁここらもシナリオどおりで興味を引くものではない。
 ワシャが「お!」と思ったのは、ファンキー末吉がドラムを叩いた時だった。ドラムの周囲で音を聞いている少女たちの表情の中に混乱が見えたのである。彼女たちは北朝鮮が日本に発する宣伝映像に駆り出されるくらいだから、音楽センスはかなり高い子供たちだ。だから音楽が見える。8ビートのリズムをはじめて耳にして、彼女たちは混乱をはじめ、そしてその音の素晴らしさを理解しはじめるのである。
 それからファンキー末吉のロック指導が開始される。彼はとても褒め上手だ。彼女たちはおだてられてメキメキとロックを吸収して行く。そして演奏が成功した時、彼女たちは不覚にも心で笑ってしまった。ワシャは、あんなに屈託のない素敵な笑顔を北朝鮮発の映像で見たことがない。
 もちろん当局の意向が大きく反映されているだろう。すべてが北朝鮮のシナリオどおりと言ってもいい。でもね、ふっと見せたあの笑顔は本物だった。
 ちょっと耄碌が入りかけているコメンテーターの河上和雄は「拉致問題が解決されないのにこんなことをしている場合か!」と吠えていたが、正面攻撃ばかりではなくて多角的な影響(ダメージ)を与えていけばいいのではないでしょうか。