香嵐渓の続き

 飯盛山の北斜面を頂上まで登った。
『日本城郭大系』にこうある。
尾張三河の両国から信濃に通じる飯田街道の要衝にあって、足助氏累代の居城であり、世にいう「足助七城」の一つである。》
 世にいう、と言われてもわかりませんよね。まぁそんなことはどうでもいいのだが、とにかくワシャが一所懸命に登っている山が城だったということがわかってもらえればいい。
 上まで登りきると頂上に南北30m、東西15mほどの平面があった。なるほどここに城郭があったのか。確かに見晴らしは抜群にいい。足下に足助の町のパノラマが広がっている。
 足助城主になった気分で暫し読書でもしようかと思ったが、何の遮蔽物もない吹きさらしなので断念した。寒いから早々と下山をする。北に下りたのでは芸がないので、西の香積寺を目指す。
 ありゃりゃ西斜面は紅葉がないのね。杉を中心とした森に彩りはない。一気に130mを下って、香積寺本堂の裏手に出る。そこから中庭を回って境内を抜けて、山門に続く石段の上に出た。
 何の気なしに立ち止まって参道を見下ろすと、石段の最上段から山門まで50メートルほどあって、そこが紅葉のトンネルになっている。たまたま雲が切れて紅葉の参道に陽光が落ち、それを狙いすましたかのように突風がゴウと駆け抜け、無数の枯葉が驟雨のように流れてゆく。圧巻だった。
 気が付けば陽は翳り、落ち葉の雨も上がっている。もう一度、見たいとしばらく粘ったが又三郎は帰ってこなかった。
 ワシャは参道を下りて帰路についたのだった。体はすっかり冷えきっていたが、とてもいい気分だ。さぁ明日から頑張ろうという気になるから不思議ですな。