怖いもの

『東海怨念地図』という本がある。愛知、岐阜、三重などの心霊スポットがおどろおどろしく書きつらねてある。この本によれば、岡崎や豊田には怨霊がわんさかといて随分と賑やかなことだ。これだけ怨霊がいるなら悪いヤツらに祟ればいいものを、どうもこの怨霊たちは悪人には祟らないらしい。
 心霊スポットの写真がいくつも掲載してある。例えば何年も前に廃業した病院とか、ホテルとか、工場などだ。これらの写真を見ていて思ったのは、本当に恐いのは霊などではなく、夜な夜な現れる人間のほうだと感じた。あなたがもしその心霊スポットに出かけたと想像してみなさいよ。たまたまそこへシンナーを吸ってラリっているネジの緩んだガキや、下半身をさらけ出した気の触れた犯罪者に出くわしたら・・・・・・恐いでしょ。実際に心霊スポットなどと言われている建造物や場所には、知能の足りないガキが現れたことを示す落書きがあちこちにあるんですぞ。
 この本には、心霊スポットの危険度が髑髏マークで記してあるが、これは怨霊に対する危険度ではなくて、犯罪に巻き込まれる危険度と見ておいたほうがいい。危地害が被害者を連れこんで、ことに及んでいるところに遭遇してごらんなさいよ。
「み〜た〜な〜」
 てなもんで、包丁で追いかけられ、運が悪ければその被害者の横に並んで冷たくなって、切り刻まれてしまいまっせ。

 21世紀は怨霊より人間の怖い時代になってきた、と思ったらこれが違った。式亭三馬の『浮世床』の中に、こんなフレーズがある。
《世に中は化物は怖(こお)ないが馬鹿者がこはいといふ》
 いつの時代も怖いものは人間ということでござる。

 因みにこの本には愛知県東谷市という地名が登場する。しかしどれだけ調べてもそんな名前の市は愛知県には存在しないのであった。ウギャァァァァ!