漂泊の旅人

 長岡で古本屋に立ち寄った
 新幹線の時間まで少々時間があったので大きなキャリーバッグをゴロゴロと引きながら町を徘徊した。ワシャの鼻はめっぽういい。迷いもせずにピタリと古本屋に辿りついた。駅前の「成匠堂書店」という店で、もちろん立ち寄ることにする。ガラス戸を開けて店内に入る。小さな店だ。おっと漫画やエロ本がない。ううむ、好感度アップですぞ。レジカウンター(帳場と言ったほうが相応しいかも)には初老のご婦人が座っている。
「荷物をここ(カウンター横)に置かせてもらっていいですか?」と尋ねると、「どうぞどうぞ」と愛想がいい。気分がいいので何冊かの本を求めた。
 永江朗『不良のための読書術』(筑摩書房)、浅野鶴子編『擬音語・擬態語辞典』(角川書店)、『山田洋次作品集1』(立風書房)、大下英治美空ひばり』(新潮社)、そしてご当地モノということで安藤英男『河井継之助』(新人物往来社)の5冊である。
 自宅に戻って買ってきた本をクリーニングがてらペラペラと繰っていると、『美空ひばり』の中に金色の栞が挟まっているのを発見した。鎌倉の長谷大仏を刻んだものだった。
 ううむ、古本は時としていろいろな履歴を披瀝してくれることがある。『美空ひばり』は、長岡(新潟県)で鎌倉(神奈川県)の栞の挟まった書籍は長岡(新潟県)の古本屋で旅人に購入されてここ(愛知県)にある。
そう言えばこんなことがあった。
 シェイクスピアを集中的に読んだ時期があって、その頃に名古屋の古本屋で『ウィンザーの陽気な女房たち』(角川文庫)を買った事がある。ふと見るとカバーのそでにやさしい女文字で購入日と名前が記してあるではないか。それが小学校の同級生だったから、あ〜ら驚いた。日付は10年も前になっている。あらら、彼女はこれを随分と昔に読んでいたんだね。
 この間、ネットで高原書店(古本屋)から『男はつらいよ1』を購入した。その本の見返しにも書きこみがあった。
「1991、8、15 購求3冊?@?A?B 於高原書店 8、17読了」
 ふ〜ん、この人は高原書店で古書として3巻セットで買って、3日を費やし「寅さんシナリオ」を読んだんだ。そしてまた高原書店に古本を売ったなかにこれがあったんだね。
 これらの本は当分の間はワシャ棚に納まっているだろうが、いずれまた旅に出て行くのだろう。