古本の楽しみ

 先日、ブックオフで買った杉本苑子『歌舞伎のダンディズム』講談社文庫を読んでいたら中に栞が挟まっている。栞を見ると「○○薬品□□支店 ●●●−●●●●」と店名と電話番号が走り書きしてあった。
 ワシャはこういうモノに出くわすのが好きだ。なんだか一冊の本が急に生き生きとしてくるんだよね。
 きっとこの本の前所有者は、仕事に向かう途中でこの本を読んでいたんだろう。駅に着いて訪問先の電話番号を会社に問い合わせて、書き付けるものがないんであわてて文庫本を取り出した。本に書くのは忍びないので、栞にメモったというところだろう。
 こんな本もあった。
下川裕治著『芦屋女性市長震災日記』を購入したら、本のとびらに「芦屋市長北村春江」と墨でサインしてある。なかなか達筆ですぞ。
別役実評論集・言葉への戦術』には20円ハガキが挟まっていた。大須七ツ寺共同スタジオで開催される「おちょこの傘持つメリーポピンズ」という演劇の案内である。まだハガキが20円だったのは1975年から1981年で、本は1977年第2刷だから、このハガキが鋏まれたのは1977年から1981年の間ということになる。そして驚いたことにハガキには知り合いの名前が書いてあった。小学校で同級生だった女の子の名前である。ありゃま!あの子、大学で演劇をやっていたんだ。目立たない大人しい娘だったが、大学に入って随分と変わったんだろうなぁ。あの子はこんな本を読んでいたんだね。ワシャより先行することウン十年前に。凄いなぁ。
 飯沼二郎著『風土と歴史』には新聞の切抜きが鋏んであった。昭和45年7月13日の新聞の書評である。この本を買った人は書評を読んで購入を決めたんだね。書評の裏がスポーツ欄で、体操日本代表の監物永三や塚原光男の若い写真がほほえましい。
『知の技法』にはレシートが挟まっていた。なになに……○○書店?ありゃま、この名前はワシャの町の駅前にある本屋ではないか、レシートの日付は1995、05、09、あれれ、この月日はワシャの誕生日ではないか。ううむ、なにか因縁のようなものを感じますぞ。
 と、思ったら、なあーんだ、これは95年の誕生日にワシャが駅前書店で買った本だったのじゃ。つまりレシートを鋏んだのもワシャだったという詰まらないオチになってしまった。