南の島に雪が・・・(2)

 それから何日かが過ぎ、その日も静かに幕が揚がった。加藤たちはいつものように大歓声が巻き起こると思って待っているのだが、あに図らんや、会場は水を打ったように静まり返っている。「どうした?」と加藤たちが今日の部隊を確認すると、東北の国武部隊だったのである。舞台が進んで、
《やっと、客席がわきはじめた。が、それはチャンバラへの喚声だった。東北の兵隊にとって、久しぶりの雪の景色は、声をあげるにしては、あまりにも刺戟が強すぎたのだった。》
 熱帯マノクワリで、雪に涙した兵士の何人かは故郷の土を踏むことはなかった。彼らから遅れること30年、昭和50年7月31日、加藤大介も彼岸へと逝く。

 そうそう、来週、上京をするから久しぶりに靖国へ足を運ぶことにするか。