プリンスの崩壊 その2

 義明の父康次郎が一代で西武王国をつくったことは周知のとおりだが、この王国をつくるのに康次郎はかなりあくどいことをやってきた。関東大震災の焼け跡にかたっぱしから「堤康次郎所有地」という札を立てて誰もクレームをつけてこなければそのまま戴きで、言ってくればきたで火災で登記簿などが焼失しているところにつけ込んで「証拠を出してみろ」と法廷闘争に持ちこみ根こそぎふんだくってしまうのである。泥棒だね。
 康次郎は言う。「商売というのは、刑務所の門まで行く。行くけれども、中には入らない。そういうやり方なんだ。中に入ってしまっては、元も子もなくなってしまう。しかし、刑務所に近づかないようでもダメなんだ」息子は入っちゃったけどね。
 康次郎はこうも言っている。「俺が死んだら10年間は動くな。武田勝頼も信玄の死後10年間動かなかったら日本の歴史は変わっていた」
 違うな。この金に強かなおっさんも日本の歴史はしっかりとお勉強しなかったらしい。勝頼が動こうと動くまいといずれ武田家は崩壊している。すでにそのきざしは信玄の在命中から内包されていたのである。
 同じことが西武王国、堤家にも言える。義明が、父の遺命を胸に10年間動かなかったが、その頃から根腐りを起こしていたのである。
今日の凋落の遠因は、すでに康次郎が関東大震災の被災地で胎動していたのである。
だいたい災害現場で救助や救援を考えるんじゃなくてさ、金儲けを考えていたというのだから驚きだ。でなければ虚飾の王国は作れないということだね。