ワシャが大相撲好きなことは、皆さんもよくご存じのことと思います。昨日の「ダメ押し」も相撲ネタだったしね。相撲道にのっとった奥ゆかしく振舞いの真摯な力士が好きですな。
行司にも贔屓がいて、例えば現在立行司をつとめる39代木村庄之助。彼は高校を中退して北の富士の井筒部屋に行司として入った。名前としては恵之助が長かったかなぁ。ワシャが注目したのは「容堂」と名乗りを変えた頃である。すっきりとした顔立ち、裁きの上手さ、声のよさ、どれをとっても38代の庄之助となる先輩行司とは格段の差があった。
話が逸れるが、その38代が、まぁ見苦しい行事でね、差し違いは頻繁にあり、土俵上の裁きもごちゃごちゃしてたし、転倒もよくした。なにしろ土俵上での動きがむさ苦しい。
その点で39代庄之助は格好いい。時間いっぱいの膝の曲げ方もしっかりと折っていましたしね。
さて、昨日の相撲で、今一行司の一番を見てみたい。前頭7枚目の阿炎と12枚目の藤ノ川の一番である。
時間いっぱい、阿炎の左手が着く前に藤ノ川が突っかけてしまった。仕切り直しである。2回目の仕切り、今度も藤ノ川、早めに両拳を仕切り線上に置く。それを阿炎は見ながらも手を着かない。先ほどと同じだ。
阿炎、ゆっくりと右手を仕切り線から20㎝ほど後方に置く。左手はまだ降ろさない。藤ノ川はずっと待っている。阿炎、時間をかけておもむろに左手を仕切り線から50㎝ほど離れた自分の膝の前の土に指先を触れた。
「はっきょーい!のこったのこった!」のはずだった。
藤ノ川は頭から突っ込んでいく。それを阿炎は大きく左へ変化した。注文相撲というやつだ。藤ノ川、これにしっかりと反応した。運動神経がいいんですね。左足を徳俵に掛けて踏ん張って態勢が崩れるのを防ぐ。下手な力士なら手を着いてしまうところだが、足腰のいい藤ノ川はぎりぎりのところで踏ん張った。
そこをすかさず突いてくる阿炎。それを藤ノ川はしっかりと見ていた。身を躱(かわ)すと、阿炎を土俵に引き落とした。大歓声が上がった。立ち上がった阿炎は西土俵に戻ろうとしている。
ところがだ、行司が首を振りながら阿炎を左手で押し留めるではないか。行司は「立ち合い不成立」を告げた。
実況のアナウンサーも「藤ノ川勝ち越し!」と絶叫していたのに、「え?立ち合い不成立??」と困惑をしている。
とにかく土俵上はもう一丁となった。さて3度目の立ち合いである。やはり同じだ。藤ノ川が両拳を仕切り線に早々と置き、阿炎がぐずぐずと手を着こうとしない。阿炎、相手を焦らしてようやく手を着くかと思いきや、指を土俵上を走らせるくらいで立ち合い、富士ノ川に突っ込んでいく。
結果は藤ノ川が押し込まれながらも正面土俵際で阿炎を突き落として8勝目を上げた。
この取り組みをワシャはビデオで、それもスロー再生で確認した。2度目の立ち合いで阿炎の左手は着いている。さらに3度目の立ち合いで阿炎の手は着いていなかった。実際には2度目の立ち合いが成立していて、3度目が不成立だろう。
ここで行司の話となる。この一番の行事は幕内格の木村秋治郎である。これの立ち方が38代庄之助によく似ている。膝をしっかりと曲げないから土俵近くの手指の動きを把握できない。もっと土俵に視線を這わせろよ。成立しているのに成立していない、成立していないのに成立している、これじゃダメでしょ。39代庄之助を目指して精進しておくんなさいまし。