達人の顔

 夕べ、NHKで「足元の小宇宙」という番組が放送された。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3035/2345010/
 主人公は85歳の絵本作家の甲斐信江さんだった。かわいいおばあちゃんで、野に出て草花をスケッチするのが日課ノゲシの前に坐りこむと何時間でもその草を描きつづける。甲斐さんにとって野の草は友達であり、子供であり、同士である。草が刈られたりしていると、友達を失ったように残念がるし、刈られた後の畑の草藁の下に芽を出している道芝などを見つけると大騒ぎで再会を喜ぶ。
 この人の行動や言動を聞いていて「誰かに似ているな」と考えた。真っ白な髪の毛もそうだが、対象物を見る時の真剣で、かつ優しい眼差し……。
 養老孟司さんだ!
 養老さんには一度だけ、講演会の前にお話をする機会に恵まれた。タバコを燻らせながら、やっぱり虫の話をしておられた。その時の目が甲斐さんの目と同じだった。柔らかな視線だけど一心で、でもどこかに楽しんでいるような輝きがある。
 草でも虫でも、人というのは極めるとこういった顔立ちになるんだ、そう思った。