エリートたちの黄昏 その1

 保阪正康『官僚亡国論』(朝日新聞出版)を読む。読みながら何度も膝を打った。
 1945年に日本は一度亡んだ。それは政治家のせいでもなく、国民のせいでもなかった。軍官僚というエリートたちの無能ゆえの暴走が国の方向性を誤らせた。
 かつて陸軍大学の卒業成績が5番以内という恩賜組だけを集めたスーパーエリート軍団があった。すべての非を他者のせいにできる頭脳と弁舌と無責任さを兼ね備えたおりこうちゃんが参謀本部作戦部を形成していた。学歴エリートと呼ばれるこいつらが事象を曲解し、机上の空論を振り回したためにたために多くの国民の血が流されたのである。
 軍エリート集団のトップに君臨していた東條英機は、己の手記の中で「戦争は国民が愚かで弱いから負けた」と書き残している。保阪さんは言う。
《この手記に目を通したとき、私はすぐに二つの感想を抱いた。ひとつは、軍官僚としての東條には、敗戦と言う未曾有の事態に際しても、指導者としての自らの責任に対する反省がまったくないということ。もうひとつは、戦争指導にあたって三百万人余の国民を犠牲にしながら、その痛みに対して何の思いも馳せていないことである。》
 東條は秀才だった。しかし秀才でしかなかった。
(下に続く)