黒い森 その2

(上から続く)
 さて、少しだけ突っ込んだ話をする。この話を読んだことにない人には何のことか解らないかもしれないけれど、もし、興味がわいたら読んでみてね。

 ワシャは、小夜子が「月の精」ではないか、と思っている。
《華やぎはないが、肌の透けるほど白い美人である。》
《いまだかつて朝をともに迎えたことはなかった。》
《小夜子は愛する人ではなく、聖なるものだった。》
 こういった描写もそうだし、小夜子という名前も竹取物語の「なよ竹」を連想させる。「夜」という1字が入っているのも意味深だ。そう考えると、主人公の竹中の「竹」にも意味がありそうでしょ。登場人物の多さも、かぐや姫の昇天の場面を彷彿とさせる。作品が発表されたのが夏である。かぐや姫は8月15日に月に帰ってゆく。あるいは、本のタイトル『月下の恋人』まで織りこんであるとすると、浅田次郎、名手と言わざるをえない。