北京五輪開会式(2)

 二千年前のシルクロードを模した巨大なステージの上で半裸の天女が乱舞する。
 しかし、どの演目も人海戦術ばかりですな。演者しかり、衣装製作も、小道具も、人だけは無尽蔵に安価に使えますからね。
 海のシルクロードは競技場を2列で囲んだ巨大な櫓を持った男たちである。その櫓が波を造っていく。見事なパフォーマンスだ。この手のマスゲーム全体主義国家はお手のものなんだろう。この漕ぎ手に囲まれた中央のフィールドに一人の男がいる。たぶんこの流れからするとあの人物に違いないと思って見ていると、NHKの三宅アナが「鄭和ですね」と言ってくれた。そう15世紀初頭に大艦隊を率いてインド洋周辺の王国に明帝国への朝貢を勧めて回った将軍鄭和である。その鄭和羅針盤を持っている。この一連のパフォーマンスでは中国が発明したもの、中国が生んだものを羅列している。ここで共産党の言いたいことは、「羅針盤は中国の発明だ」ということだ。ついでに大航海時代の先鞭も「中国人の鄭和である」と言いたいらしい。だから鄭和羅針盤を持たせて登場させているのだが、鄭和が航海したコースは、すでに航路として確立されていた。正確に言えば紀元前後には西域、南亜、極東の交流があった。AD166年には大秦国(大ローマ帝国)の使者が海路を使って中国まで到達している。だから殊更ひけらかすほどのことでもない。それにお国自慢しているのはみんな共産党がぶっ潰した帝国時代のものばかりじゃないか。まぁどうでもいいけどね。
 艶やかな女性が色とりどりの重厚なドレスを身にまとい、大量に登場してくる。歴代王朝の後宮を彷彿とさせるような豪華なアトラクションだ。そしてそれぞれの女官が美しいんですな。美女が競技場を埋め尽すと、その周囲ににょきにょきと32本の搭が屹立する。その搭の腹には金の龍が描かれており、天に中国の象徴である龍が昇っていくということを象徴しているらしい。ワシャはまた美女が出てきて搭が立ったので、中国もなかなか色っぽいことをするもんだと感心したのだが……失礼しました。
 しかし、一連のアトラクションを見ていると、中国共産党は心底では清王朝以前の皇帝の時代を肯定しているのではないかと思えてしまう。もちろん歴史としては敬意を表しているだろうが、皇帝と一部の貴族階級が人民から搾取して統治していく王朝システムを否定していない。
 あ、そうか!今の一党独裁システムも、BC17世紀に成立した殷以来継承されてきたシステムと同じものだと思えば納得がいく。中国は共産主義国家ではなく王国なのである。(つづく)