絵画鑑賞

 いやーぁ、すっかり遅くなってしもうたわい。
 今日は、天気がよかったので、ちょいと碧南市まで出掛けておったんじゃ。碧南市というのをご存知ない方もおられるだろうから、ちょこっと説明をさせてもらいますね。
 碧南市は愛知県南部の矢作川河口部の衣浦湾に面している。人口は7万4000人。市制施行は1948年、港町の新川、大浜、棚尾が合併して市を構成している。小さな田舎町といっていい。最近の話題としては、当選したばかりの新市長が某宗教団体と深い関わりを持っていることが露呈した。
 そこに美術館ができた。地元出身の美術工芸家、藤井達吉を記念する美術館だそうだ。新しくできた施設は、機会があれば話の種に見ておくことにしているので、連休の暇つぶしにいそいそと碧南まで出掛けた。
 まぁ碧南市は火力発電所もあるし、衣浦臨海工業地域の中核都市でもあるので財政力は豊かである。だから、8階建ての豪華な市庁舎を建てたばかりだというのに、美術館まで造ってしもうた。
 ところで藤井達吉って誰だろう。残念ながら隣の町に住んでいるワシャは寡聞にしてその人物を知らない。では人名事典で調べてみよう。
(調べ中……)
 ワシャの書庫には3冊の人名事典があるが、残念ながらそのどれにも載っていなかった。平凡社の「世界大百科事典」にもない。ううむ、かなり地域的な工芸作家とお見受けした。それでも高村光太郎岸田劉生などとも親交があったというから、まあそれなりの実力はあったんでしょうな。因みにこのお二人は人名事典にしっかりと掲載されている。
 まぁ小金を持っている自治体が、地元の好事家や自称芸術家の皆さんの圧力に耐えかねて造っちまったんでしょうな。ご苦労様。

 というようなわけで、碧南市藤井達吉現代美術館の開館記念展「藤井達吉のいた大正」を拝見いたしましたぞ。約100点の大正絵画、彫刻などはそれなりに見応えがあった。とくに気に入ったのが、岸田劉生「赤土と草」(大正4年 34×46cm カンヴァス・油彩)である。草むらとその真ん中に通っている赤土の道を描いただけの何の変哲もない風景が描かれている。どうってことはないのだが、あおい炎のように描かれた初夏の叢からは草いきれが伝わってくるようだ。それにね、見様によっては、裸婦が緑の毛皮をまとっているようにも見える。
 その他にも何点か面白い絵を見つけましたぞ。それだけでも碧南まで行った甲斐があったわい。めでたしめでたし。