おとといの夜のこと その2

「で、でたかー!」私は両手で両眉を押えて、慎重に歩を進めた。街灯の下の影はどうやら女であるらしい。スタスタスタスターとその横を駆け抜けようとした瞬間、「もしもし」と声がかかった。いかん、ここで振り返ったらえらいことになる、そう考えて暗闇にむかって脱兎の如くに走り出した。影は私に叫んだ。
「迎えに来たんじゃないの、なにをふざけているの」
 影はうちの嫁だった。あー助かった。
 迎えの車に乗り込み、自宅へ帰ってあったかい風呂につかって鼻歌を歌っていると、
「もしもし、あんた、こんなところでなにしているの」と、通りすがりのお百姓さんに声をかけられた。
「え?なんで我が家の風呂によその人が通りかかるの???」
 よくよく目を凝らすとそこは田んぼの中の肥溜めだったとさ。
(今時、肥溜めはないか〈笑〉)