落語、小津、歌舞伎、ニャンコ先生

 新春早々のテレビは芸人中心のバラエティばかり。驚いた。もちろん忙しいこともあってワシャはまったく元旦はテレビを見ていない。まぁ忙しいといっても私事なんですが、年初、身内が我が家に集まって宴を持ったんですわ。その準備やらなんやかやで朔日から家族でバタバタしておりました。とくにワシャの場合は右手が不自由なんだけど、役に立たない割には注文が多いから手伝ってくれた身内にもご迷惑様でした。

 例年なら新年を寿ぎながら持ち寄ったものを肴に一杯やるんですが、今年は父親の喪中なので、法事といった趣で、お灯明を上げ線香を焚き、静かに2日の昼過ぎから3時頃までを仏前で軽く食事会(でも飲みましたがね)といった感じで過ごす。

 最後の客人を日暮れ時に送り出す。とはいえ近くの公園まで右手を庇いながら見送ったんです。その公園にね、ちょっとした岩壁があって、そこを客人は突然登り始めた。ワシャの右手さえしっかりしていればフォローもできるんだが、左手一本では転んだ時に手を添えるのもままならない。だからつい大きな声で注意をした。

「三点支持をするんだ!」

 三点支持、または三点確保と言う。登山の時に、体を両手両足のうちの3つで支えて昇り降りなどの移動をする方法である。岩場やガレ場だけではなく、はしごや脚立による昇り降りでも同様にして安全確保をする。

「さんてんしじってなあに?」

 と、客人が言うので、上記の説明を簡単にした。そうしたらちゃんと三点確保をして公園の岩を登ったのであった。あ~ひやひやした。

 その後、家に戻ったが登山指導でちょいと疲れたわい。酒を持って居間の炬燵に潜り込む。そうするとね、どこかで聴いた声がする。ガバと起きて音源の先を見ると、テレビの画面に古今亭志ん生が落語をやっていた。それもカラー画面で。ワシャは白黒でしか観たことがなかったので驚いた。ネタは「風呂敷」。遊び好きの亭主が家を空けている隙に、女房が昔なじみの男を家に連れ込んだ。そこで酒を呑んでいるところに、亭主が突然帰ってくる・・・てなことから騒ぎが始まるという噺。

 今日は志ん生の話には入りこまないが、新春早々テレビを点けたら志ん生というのもうれしいじゃありませんか(喜)。

 志ん生の後を金馬が「やぶ入り」でご機嫌をうかがう。だがこれがちょいと退屈で、チャンネルを替えたんです。そしたら、突然、原節子のアップが出てきた。およよ!なんと三重テレビ小津安二郎の『東京物語』をやっていたんですね。

 NHKのEテレでは、午後6時から「待ってました!歌舞伎生中継」が始まる。今日、初日を迎えた東京歌舞伎座の夜の部が観られるっていうんだから、こいつは見落とすわけにゃあいかねえ。小津を取るか歌舞伎をとるか・・・。

 まぁ『東京物語』のシナリオはほとんど覚えているので、歌舞伎の幕間の時に切り替えて観ることにしました。取り合えず午後6時まで『東京物語』を観て、舞台が始まった頃に切り替えた。

 おおおお、懐かしい歌舞伎座の舞台じゃ。

「熊谷陣屋」の直実が松緑(舌足らずで華がない)か。源義経芝翫三田寛子の旦那、女好き)、弥陀六が歌六獅童のかなり年上の従兄)か。ううむ、今は歌舞伎冬の時代と言われて久しいが、歌舞伎座がこの面々とはちと寂しい。

 一世代前なら名古屋御園座でも、直実が十二代目團十郎義経が七代目菊五郎、弥陀六が三代目権十郎で観られたんです。令和7年は歌舞伎座がまるで田舎の公民館での歌舞伎公演みたくなっちまった。

 その次が「二人椀久」。尾上右近中村壱太郎(かずたろう)の舞踊。

「狂乱もの」と呼ばれる演目で、ワシャが初めて観たのは歌舞伎座富十郎雀右衛門だった。富十郎は舞の名手と言われ、双方とも人間国宝になった役者で、狂った椀屋久兵衛と遊女松山の華やかさの中に哀愁のただよう舞台が良かった。

 さて右近、壱太郎の舞台である。右近は六代目の曾孫で清元延寿太夫の子、そういった血から考えると舞踊の名手になってもおかしくない。顔立ちもそれなりにいいし。

 一方の壱太郎、四代目中村鴈治郎の息子である。ワシャは上方歌舞伎名跡鴈治郎があまり好みではない。三代目鴈治郎はそれでも女形をやっていて、その子扇雀は細身を維持して女形として頑張っている。しかし三代目はずんぐりむっくりとした体形でかつ顔がでか丸い。歌舞伎役者には向いていないと思う。体型は富十郎に似ているが、顔が歌舞伎顔になっていないんですね。

 その息子の壱太郎、この人は父親に輪をかけて男顔というか・・・。その顔立ちでは女形は難しいのではないか?なにしろ歌舞伎に出てくる姫や遊女は絶世の美女ばかりなのである。いくら歌舞伎の世界とはいえ、そこはそれ、玉三郎とか七之助とか米吉とか莟玉とか地顔が眉目秀麗なほうがいいに決まっている。そういったことからも立役のほうがいいと思うし、女形にこだわるなら体重を落としてすんなり見せたほうがいい。

 夜の部トリが「大富豪同心」。テレビで中村隼人が演じているドラマをそのまま持ってきた。ううう、隼人の顔立ちも歌舞伎役者として考えると今一つに思える。素顔はいい顔立ちなんですよ。昨今の男性アイドルと並べても遜色はない。だが、これが歌舞伎顔になれるかというとちと違う。歌舞伎顔にもっとも適しているのが、玉三郎である。地顔はのっぺりとしていて凸凹がない。だから化粧がよくのる。ところが今風のいい男は顔に高低がありすぎる。かつ隼人の目鼻口などの部品は顔面の中央寄りに集まっていて化粧映えがしない。

 まあいいんですけどね、ワシャらなんぞ歌舞伎座でも4階席の壁際から観るくらいですから、肉眼では顔の造作など見えないんですけど。テレビだと顔のアップもあって、これが造作のよろしくない役者には厳しいでしょう。

 いかんいかん、歌舞伎の話に入り込んでしまった。ついついキーボードが走ってしまう。

 これで締めにしますが、今朝、ケーブルテレビで「夏目友人帳 漆」が4話もやっていたんですよ。新年早々、わが家のテレビがワシャを楽しませてくれた。