劇画のような

「ゴルゴ13」に「海に向かうエバ」と題された作品がある。ゴルゴ13とエバという女殺し屋が行き過ぎる抒情的な名作だった。それこそ何十年も前の作品なのだが、未だに心に残っている。その物語はまたネットででも検索してみてくだされ。
 そのエバの殺し方である。針を使う。ターゲットに近づいた一瞬を逃さず、ピンポイントでペンダントに仕込まれた針を打つ。瞬殺である。金正男氏が女性によって暗殺されたという第一報を聞いて、すぐにエバの顔が浮かんだ。
 しかし、続報が重なるにつれ、現実の犯行を知るにつけ、とてもじゃないがエバのような刺客ではなかった。このところのニュースでは刺客でもなく、単に道具として使われた感が強くなってきた。やっぱり劇画とはちょっと違うか。
 それでも「LOL」のネーチャンたちを使った組織の暗殺能力は高い。中東関連のテロであれば、無闇に人をブッ飛ばしてかたをつけようとする。今回の金正男氏の暗殺はピンポイントで始末をつけ、それも今朝の朝刊によれば接触、執行、離脱までが2秒だったという。そして主力のメンバーの4人はマレーシアを出国し、自国に帰還したとも言われている。ここまでは鮮やかだ。でもね、名前と顔写真が公表されてしまった。これは間抜けだった。これで北朝鮮の犯行ということがばればれで、北朝鮮のマレーシア駐在大使が「捜査は信頼できない」とか「なぜ北朝鮮の国民を悪者扱いするのか」とか喚きたてても、かえって北朝鮮の犯行だということを色濃くするばかりだ。
 こうなってくると「実行犯が誰か?」ということはどうでもいい。すでにチームの主力は本国に帰ってしまった。本国の首領様の懐に入ったということは、その犯人たちの命も危ない。なんせその男たちが第一級の証拠なのだから。首領様が証拠を隠滅する可能性は高い。
 マレーシア駐在の北朝鮮大使も気を付けないと、将来、本国に戻った時に「まったく仕事をしていなかった」などといちゃもんをつけられて粛清もありうる。急いで荷物をまとめて亡命したほうがいい。