書店にて

 昨日、仕事の帰りにいつもの駅前の本屋に立ち寄った。雑誌コーナーを物色していると奥のレジカウンターのほうから男の声がする。なにやら国際情勢について滔々と語っている。本棚ごしに窺えば、初老のオッサンで、見覚えがあった。このオッサン、以前に図書館でも見たぞ。司書をつかまえて、「ゴーマニズム宣言」をかじったか、「そこまで言って委員会」で見たようなことをいかにも自分の説のように喚いていた。同じだ。ここの本屋の奥さんはいい人なので、にわか右翼のアホを相手に真面目な対応をしている。迷惑が目に余るようなら、レジに割り込んで奥さんを助けようと、そこいらにある本を適当に手に持った。
 オッサン、頭にのって長演説をぶっている。「僕ほど幕末の東アジアの情勢を知っている人間はいないよ」とかなんとか言っている。ホントかいな。「坂本竜馬が上海へわたってピストルを入手したんだ」って、それは高杉晋作だろう(笑)。奥さんも笑っている。まあこれならいいか。と思いつつも、それでもレジカウンターにじわじわと近づきながら、オッサンに圧力をかけていく。でもね、そういった自己中心的なアホは周囲のことに気がつかない。結局、奥さんが区切りをつけるまで話し終わらなかった。このオッサンの話をまともに聞いてくれる家族や知人はいないんだろうね。
 ワシャは「ご苦労様でした」と手に持っていた本をカウンターに置いた。奥さんは「お待たせしました」と言ってくれる。本を確認しながら「あらワルシャワさんにしては珍しいラインナップですね」と言われてしまった。あ、適当につかんだ本だった。「ごめんなさい」と応じて、すぐに本棚に引っ返す。中川右介『戦争交響楽』(朝日新書)、小林よしのり『民主主義という病い』(幻冬舎)、「芸術新潮」6月号、『図書館へ行こう!!』(洋泉社MOOK)。あわててこの4冊を選んでレジに持って行ったのだった。
「こちらの方がワルシャワさんらしいですね」
「はい失礼しました」
 というようなことがあった。